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5 茶会 ~歌の月 緑曜日~ ④武勇伝?


***




 花の季節の穏やかな陽射しと風の中。色とりどりの可憐な花が咲く青の中庭で、見目麗しい淑女二人がテーブルを挟んで微笑み合う。



 一見、優雅な光景――



「そ、それで、ミスティーナ様はどうされたのですか?」



 テーブルに並べられた昼餉の料理もそこそこに、セレンディーナは話し手を熱く見据える。



 ずっと聞きたかった、宰相夫人ミスティーナと宰相ディアロアとの恋物語。


 成人のお祝いの式典で、フェロー宰相に初めて出会ったミスティーナは、ディアロアを見た瞬間、雷(いかづち)が己(おのれ)の心を貫いたような衝撃を受けたと言う。


 今まで読んだ物語の中に、そんなに激しい表現はあっただろうか? イヤなかった。本物恋はなんてスゴいのでしょうと、セレンディーナは目を輝かせた。



「もちろん、国王であるお父様に直談判から始めました」


「国王様に直談判ですか!?」



 なんて大胆な事をなさるのだろう?


 本当に、物語の主人公のようなミスティーナ王女の行動に、セレンディーナは胸がドキドキと熱くなった。


 ガレジア帝国ではありえない。いや、ドルディア王国でもあってはならない事だったのかも知れない。が……。



「それで、国王様は?」



「もちろん、最初はダメの一点張りでした」


「そう、ですよね?」



 ガレジアでは、皇帝である父にそんな話を直接することさえ叶わないのだから。



「国王は、わたしの婚約候補に、母の縁(ゆかり)のある神大陸のブランシェ王国第八王子殿下あたりどうかと、大陸会議の時にお話が上がっていたようで……」


「……っ」



 レチアーノ王妃様の縁とは言え、大国中の大国だ。正式ではないけれど、ドルディア王国からは断りにくいお話であると、政治に疎いセレンディーナでも想像できる。



「だからお話が正式にならないように、アドルフィン兄さまと、弟のフェルテスに協力してもらったの」


「……協力、ですか?」



 婚約者候補の二人が、兄弟としてミスティーナの恋に協力すると言うのを想像するだけで、ほっこりした気持ちになる。仲の良い兄弟なのだろう。



「そう、王女ミスティーナがとんでもないお転婆で、女騎士のように翼竜に乗り魔獣を討伐するような、跳ねっかえりの難あり姫だと噂を流してもらったの」


「まぁ! ……では、翼竜に乗る王女さまと言うのは、本当ではなかったのですね?」


「ふふ……、それは本当、でもさすがに魔獣討伐は出来ないわ」


「……っ、翼竜に乗るだけでもスゴいです」



 自分を落としめる噂を流してでも、宰相ディアロアとの恋を貫こうとするミスティーナの気丈さに、セレンディーナの心は打ち震えていた。



「あのっ、噂を流されて、どうだったのですか?」


「えぇ、ブランシェ王国から、婚約候補のお話を保留にと知らせがあったみたい、それでさすがのお父様も悩んでしまわれて、宰相のディアロアがわたしを呼び出したの」



 大国との繋がりが潰(つい)えてしまったのだ。


 自分が原因とは言え、政略的な婚姻がしずらくなってしまった王女に、ディアロア宰相は何と言ったのだろう?



「……ディアロア宰相は、なんと?」


「『そんな事をしても、娘のように年の離れたあなたと結婚するつもりはない』と言われたわ」


「えぇっ?」


「情報を集めて知ったけど、お仕事人間の堅物宰相で有名でね、数ある縁談を袖にしまくっていた人なのよ」


「……それにしても一国の王女様に、冷たい言い方です」



 ミスティーナが自ら噂を流したことがバレてしまっている。


 それを知っての憤慨もあったのかも知れないが、なんとも連れない言い方に、セレンディーナはショックを受けた。



「本当に冷たい言い方なのよね~、ディアロアは、そこがまた大好きなんだけどぉ~」


「えっ?」



 冷たい所がまた大好きなのよ、とはどう言う意味だろう?


 恋愛未経験のセレンディーナには、理解が追いつかない言葉だった。



「当時ディアロアは二十八歳で、わたしより十三歳上だったの、政略結婚じゃあ当たり前の年齢差じゃない? だから悔しくて『そんなことでは諦められません!』って言ってやったわ」


「……っ、ミスティーナ様は、色々とスゴいお方です……」



 十三歳も年上の殿方に一目惚れも凄いけれど、冷たく断られた年上の宰相に啖呵を切るミスティーナの気丈さが際立つ。更にその冷たい所が好きだなんて……。



「ふふ……、ありがとう、それでね、彼に好きになってもらえるべく、弟のフェルテスに相談して考えた、三十個のディアロア攻略作戦をたてて決行したのよ」


「三十個もですか!?」



 セレンディーナは、ただただ驚いて息を飲んだ。後ろに控えたマユーラは、吹き出しそうになるのをこらえた。


 まるで戦(いくさ)の戦略のようだが、我がままな一王女の、ただの片想いの強行突破大作戦である。



「まずは、①朝登城時に毎日彼に挨拶に行って、ふと会えない日を作って気にさせてしまう作戦でしょう?」


「……っ」



 そんな作戦を思いつくだなんて、二人ともスゴい……。


 自分だって、たくさんの本や恋愛物語を、見てきたはずなのに……。どうやったらそんな作戦が、浮かぶのだろう?



「フェルテスって、心理作戦が得意なのよ その後、②文官の弟モルフェンと仲良くなって取り込んで(無理やり)彼の情報を聞き出し、好きなものをさりげなくプレゼントしたわ」


「まぁ素敵、それで何をプレゼントされたのですか?」


「双首竜の魔石よ」


「えっ?」



 それは、さりげないプレゼントなのでしょうか?



 ポカンとするセレンディーナに。後ろに控えたマユーラが、我慢出来ずに咳き込み始める。



「……よ、喜んでは、頂けたのですか?」


「もちろん喜んでもらえたわよ、アドルフィン兄様に頑張ってもらえた甲斐があったわ」


「……」



 ミスティーナが弟フェルテスと考えて実行した宰相ディアロア⋅フェロー陥落作戦は、まだ二つ目なのに、セレンディーナの知る常識の外過ぎた。



「そろそろお時間です、お部屋へご案内します」


「仕方なわね、続きは後で」



 程よく四の鐘半時過ぎになり、迎えに来た侍女に連れられ、ミスティーナの王女時代の部屋へ移動することになった。




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