5 茶会 ~歌の月 緑曜日~ ④武勇伝?
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花の季節の穏やかな陽射しと風の中。色とりどりの可憐な花が咲く青の中庭で、見目麗しい淑女二人がテーブルを挟んで微笑み合う。
一見、優雅な光景――
「そ、それで、ミスティーナ様はどうされたのですか?」
テーブルに並べられた昼餉の料理もそこそこに、セレンディーナは話し手を熱く見据える。
ずっと聞きたかった、宰相夫人ミスティーナと宰相ディアロアとの恋物語。
成人のお祝いの式典で、フェロー宰相に初めて出会ったミスティーナは、ディアロアを見た瞬間、雷が己の心を貫いたような衝撃を受けたと言う。
今まで読んだ物語の中に、そんなに激しい表現はあっただろうか? イヤなかった。本物恋はなんてスゴいのでしょうと、セレンディーナは目を輝かせた。
「もちろん、国王であるお父様に直談判から始めました」
「国王様に直談判ですか!?」
なんて大胆な事をなさるのだろう?
本当に、物語の主人公のようなミスティーナ王女の行動に、セレンディーナは胸がドキドキと熱くなった。
ガレジア帝国ではありえない。いや、ドルディア王国でもあってはならない事だったのかも知れない。が……。
「それで、国王様は?」
「もちろん、最初はダメの一点張りでした」
「そう、ですよね?」
ガレジアでは、皇帝である父にそんな話を直接することさえ叶わないのだから。
「国王は、わたしの婚約候補に、母の縁のある神大陸のブランシェ王国第八王子殿下あたりどうかと、大陸会議の時にお話が上がっていたようで……」
「……っ」
レチアーノ王妃様の縁とは言え、大国中の大国だ。正式ではないけれど、ドルディア王国からは断りにくいお話であると、政治に疎いセレンディーナでも想像できる。
「だからお話が正式にならないように、アドルフィン兄さまと、弟のフェルテスに協力してもらったの」
「……協力、ですか?」
婚約者候補の二人が、兄弟としてミスティーナの恋に協力すると言うのを想像するだけで、ほっこりした気持ちになる。仲の良い兄弟なのだろう。
「そう、王女ミスティーナがとんでもないお転婆で、女騎士のように翼竜に乗り魔獣を討伐するような、跳ねっかえりの難あり姫だと噂を流してもらったの」
「まぁ! ……では、翼竜に乗る王女さまと言うのは、本当ではなかったのですね?」
「ふふ……、それは本当、でもさすがに魔獣討伐は出来ないわ」
「……っ、翼竜に乗るだけでもスゴいです」
自分を落としめる噂を流してでも、宰相ディアロアとの恋を貫こうとするミスティーナの気丈さに、セレンディーナの心は打ち震えていた。
「あのっ、噂を流されて、どうだったのですか?」
「えぇ、ブランシェ王国から、婚約候補のお話を保留にと知らせがあったみたい、それでさすがのお父様も悩んでしまわれて、宰相のディアロアがわたしを呼び出したの」
大国との繋がりが潰えてしまったのだ。
自分が原因とは言え、政略的な婚姻がしずらくなってしまった王女に、ディアロア宰相は何と言ったのだろう?
「……ディアロア宰相は、なんと?」
「『そんな事をしても、娘のように年の離れたあなたと結婚するつもりはない』と言われたわ」
「えぇっ?」
「情報を集めて知ったけど、お仕事人間の堅物宰相で有名でね、数ある縁談を袖にしまくっていた人なのよ」
「……それにしても一国の王女様に、冷たい言い方です」
ミスティーナが自ら噂を流したことがバレてしまっている。
それを知っての憤慨もあったのかも知れないが、なんとも連れない言い方に、セレンディーナはショックを受けた。
「本当に冷たい言い方なのよね~、ディアロアは、そこがまた大好きなんだけどぉ~」
「えっ?」
冷たい所がまた大好きなのよ、とはどう言う意味だろう?
恋愛未経験のセレンディーナには、理解が追いつかない言葉だった。
「当時ディアロアは二十八歳で、わたしより十三歳上だったの、政略結婚じゃあ当たり前の年齢差じゃない? だから悔しくて『そんなことでは諦められません!』って言ってやったわ」
「……っ、ミスティーナ様は、色々とスゴいお方です……」
十三歳も年上の殿方に一目惚れも凄いけれど、冷たく断られた年上の宰相に啖呵を切るミスティーナの気丈さが際立つ。更にその冷たい所が好きだなんて……。
「ふふ……、ありがとう、それでね、彼に好きになってもらえるべく、弟のフェルテスに相談して考えた、三十個のディアロア攻略作戦をたてて決行したのよ」
「三十個もですか!?」
セレンディーナは、ただただ驚いて息を飲んだ。後ろに控えたマユーラは、吹き出しそうになるのをこらえた。
まるで戦の戦略のようだが、我がままな一王女の、ただの片想いの強行突破大作戦である。
「まずは、①朝登城時に毎日彼に挨拶に行って、ふと会えない日を作って気にさせてしまう作戦でしょう?」
「……っ」
そんな作戦を思いつくだなんて、二人ともスゴい……。
自分だって、たくさんの本や恋愛物語を、見てきたはずなのに……。どうやったらそんな作戦が、浮かぶのだろう?
「フェルテスって、心理作戦が得意なのよ その後、②文官の弟モルフェンと仲良くなって取り込んで(無理やり)彼の情報を聞き出し、好きなものをさりげなくプレゼントしたわ」
「まぁ素敵、それで何をプレゼントされたのですか?」
「双首竜の魔石よ」
「えっ?」
それは、さりげないプレゼントなのでしょうか?
ポカンとするセレンディーナに。後ろに控えたマユーラが、我慢出来ずに咳き込み始める。
「……よ、喜んでは、頂けたのですか?」
「もちろん喜んでもらえたわよ、アドルフィン兄様に頑張ってもらえた甲斐があったわ」
「……」
ミスティーナが弟フェルテスと考えて実行した宰相ディアロア⋅フェロー陥落作戦は、まだ二つ目なのに、セレンディーナの知る常識の外過ぎた。
「そろそろお時間です、お部屋へご案内します」
「仕方なわね、続きは後で」
程よく四の鐘半時過ぎになり、迎えに来た侍女に連れられ、ミスティーナの王女時代の部屋へ移動することになった。




