3 夜会 ~緑の月 花曜日~ ⑤ウソイツワリ
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「――…?」
「――…さま? 夜会で何かございましたか?」
「えっ?」
我に返って顔を上げると、心配顔の侍女姉妹二人が、セレンディーナの顔を覗き込んでいた。湯浴みも終わり、乾かした髪を就寝用に緩く編んでいる所。
「お身体が戻るのは十の鐘過ぎになるので、一度目が覚めてしまうかも知れませんが、明日はゆっくりめの朝餉にいたしますので」
「うん、マユーラありがとう」
「ダンス、無理なく踊れましたか?」
「えぇ、フェルテス殿下がリードしてくださいました」
「廊下に飾られている、レチアーノ王妃様の肖像に似ておりましたね、驚くほどそっくりで……」
「白金の御髪に水色の瞳! どこから見てもキラキラしていて素敵な王子殿下でしたねぇ」
「マユーラ、はしたないわよ?」
「目の保養は大事でしょ? マルセイはホントお固いんだから」
「……」
二人の侍女の微笑ましいやり取りを、何処か遠い景色のようにセレンディーナは見ていた。
「姫さま、今日はお疲れですね?」
「夜会で、フェルテス王子殿下と何かございましたか?」
夜会があったのですでに九の鐘が鳴る頃なのだろう。マルセイが持っていた水差しをベッドサイドに置いて、セレンディーナの前にかしずいた。
「……何も、何もなかったわ」
ただ、彼が自分の相手ではないと分かっただけ。その事実を二人に伝えるべきか逡巡していた。いずれ分かる事だが、言葉にせず自分にだけ伝えてくれた彼の想いを鑑みると、伝えるべきではないと思えてしまう。
「そうでございますか、では今日はもう遅いのでお休みくださいませ」
「セレンディーナ様、明日、キラキラした王子殿下のお話を聞かせてくださいまし」
「ふふ……、そうね、二人ともお休みなさい」
「おやすみなさいませ」
「姫さま、おやすみなさいませ」
布団に入り、天蓋の薄布を引いて侍女二人が部屋へ下がってゆく。
天蓋を一度見つめてから、セレンディーナは目を閉じた。瞼の裏に、自分を真っ直ぐに見つめる水色の瞳が映る。
『どうして、そんな大事な事を教えてくれたのですか?』
『……そうですね、嘘偽りのないあなたに、一つだけでも誠実でいたかったのかも知れません』
ウソイツワリノナイ――
今の自分の手を顔の前にかざしてみる。ドロップスの魔法で、十六歳に成長した身体。まったく誠実ではない自分に胸が痛くなる。けれど、これは絶対にバレてはいけないもの。
ドルディア王国の従者、国王、王子殿下が優しく対応してくれ、居心地が良いと感じる度に罪悪感が胸を締め付ける。
「フェルテス殿下、ごめんなさい」
小さくつぶやいて、セレンディーナは瞳をそっと閉じた。




