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3 夜会 ~緑の月 花曜日~ ⑤ウソイツワリ


***



「――…?」


「――…さま? 夜会で何かございましたか?」 


「えっ?」



 我に返って顔を上げると、心配顔の侍女姉妹二人が、セレンディーナの顔を覗き込んでいた。湯浴みも終わり、乾かした髪を就寝用に緩く編んでいる所。



「お身体が戻るのは十の鐘過ぎになるので、一度目が覚めてしまうかも知れませんが、明日はゆっくりめの朝餉にいたしますので」


「うん、マユーラありがとう」


「ダンス、無理なく踊れましたか?」


「えぇ、フェルテス殿下がリードしてくださいました」


「廊下に飾られている、レチアーノ王妃様の肖像に似ておりましたね、驚くほどそっくりで……」


「白金の御髪に水色の瞳! どこから見てもキラキラしていて素敵な王子殿下でしたねぇ」


「マユーラ、はしたないわよ?」


「目の保養は大事でしょ? マルセイはホントお固いんだから」



「……」



 二人の侍女の微笑ましいやり取りを、何処か遠い景色のようにセレンディーナは見ていた。



「姫さま、今日はお疲れですね?」


「夜会で、フェルテス王子殿下と何かございましたか?」



 夜会があったのですでに九の鐘が鳴る頃なのだろう。マルセイが持っていた水差しをベッドサイドに置いて、セレンディーナの前にかしずいた。



「……何も、何もなかったわ」



 ただ、彼が自分の相手ではないと分かっただけ。その事実を二人に伝えるべきか逡巡していた。いずれ分かる事だが、言葉にせず自分にだけ伝えてくれた彼の想いを鑑(かんが)みると、伝えるべきではないと思えてしまう。



「そうでございますか、では今日はもう遅いのでお休みくださいませ」


「セレンディーナ様、明日、キラキラした王子殿下のお話を聞かせてくださいまし」


「ふふ……、そうね、二人ともお休みなさい」



「おやすみなさいませ」

「姫さま、おやすみなさいませ」



 布団に入り、天蓋の薄布を引いて侍女二人が部屋へ下がってゆく。


 天蓋を一度見つめてから、セレンディーナは目を閉じた。瞼の裏に、自分を真っ直ぐに見つめる水色の瞳が映る。



『どうして、そんな大事な事を教えてくれたのですか?』


『……そうですね、嘘偽りのないあなたに、一つだけでも誠実でいたかったのかも知れません』



 ウソイツワリノナイ――



 今の自分の手を顔の前にかざしてみる。ドロップスの魔法で、十六歳に成長した身体。まったく誠実ではない自分に胸が痛くなる。けれど、これは絶対にバレてはいけないもの。


 ドルディア王国の従者、国王、王子殿下が優しく対応してくれ、居心地が良いと感じる度に罪悪感が胸を締め付ける。



「フェルテス殿下、ごめんなさい」



 小さくつぶやいて、セレンディーナは瞳をそっと閉じた。









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