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「三階から突き落としましたが、何か?」〜正気を疑われた令嬢の、正しすぎる理由〜

作者: 空丘ジル
掲載日:2026/05/09

「レヴィーチェ、お前との婚約をここで破棄する!俺は新たに、このサターリアを妃に迎えることに決めた!」


 学園の卒業パーティー。きらびやかな大広間に、王太子ギャラントスの怒声が突き刺さった。


「殿下、本気で仰っているのですか?」


 レヴィーチェ・トゥルーランド侯爵令嬢は、絞り出すような声で問い返した。

 その瞳には絶望ではなく、ある種の覚悟が宿っている。


「当然だ。お前がサターリアに働いた数々の非道、もはや見過ごせぬ。お前は正気なのか!?」


「……私があの者を『排除』しようとしたことを、仰っているのですね」


「開き直るか、この悪女め!釈明があるなら聞いてやる。言ってみろ」


 レヴィーチェは小さく首を振った。


「釈明などございません。私は正しいことをしたまで。殿下、どうか目を覚ましてください」


「黙れ!自分の悪行をここで数え上げ、己の醜さを知るがいい!」


 王太子の言葉に呼応するように、広間が二つに割れた。サターリアを崇めるように壇上へ群がる者たちと、得体の知れない恐怖から逃れるようにレヴィーチェの背後に集まる者たち。


「……よろしいですわ。では、始めから申し上げましょう」


 レヴィーチェは淡々と語り始めた。


「まず、校舎の三階から、その者を突き落としました」


「ああ、あれは恐ろしかった。だがサターリアは傷一つ負わなかった。神のご加護があったからだ!」


 レヴィーチェの唇が皮肉に歪む。


「次に、その者の茶に致死量の毒を混ぜました」


「それも無駄だったな。彼女の聖なる身体には毒など効かぬ。それも神の——」


「いいえ、殿下。神ではありません」


 レヴィーチェは深い溜息をつき、最後の一段を告げた。


「最後に、私はこの手で、銀のナイフをその者の心臓深くまで突き刺しました」


「狂気の沙汰だ!だがそれでも、サターリアは微笑んでいた。それこそ神のご加護というものだ」


「本当にそうお思いですか?」


 レヴィーチェの鋭い声が、王太子の言葉を遮った。


「刺した時、飛び散った血の色を、その目で見なかったのですか?……真っ黒でしたでしょう? 人間の血ではあり得ない、おぞましい黒色だったはずです!」


「何を……戯言を!おい、この狂女を捕らえろ!」


 衛兵たちが一斉に動き出す。


 絶体絶命の瞬間、レヴィーチェは祖母から託された家宝の指輪を強く握りしめた。

(お願い、誰か助けて……!)


 その瞬間、指輪から溢れ出した白い煙が人の形を成した。


「やれやれ、呼ぶのが遅すぎるよ」


 現れたのは、中性的な容姿をした少年——トゥルーランド家の守護精霊、トゥルーラだった。


 彼が指先で空を切ると、迫りくる騎士たちは石像のように凍りついた。


 トゥルーラの出現に驚いたレヴィーチェは、かろうじて言葉を絞り出した。


「殿下はなぜ、あんなものを側に置くのです……?」


 震えるレヴィーチェに、トゥルーラは残酷な真実を告げる。


「気づかないかい? 向こう側にいる連中は、心に邪な欲を持っているんだ。だから簡単に『あれ』に取り込まれて、正体が見えなくなっているのさ。王太子は特に、心が腐りきっているね」


 トゥルーラは可笑しそうに笑うと、手のひらに溜めた光を会場全体へ吹き飛ばした。


「——さあ、覚醒めざめの時間だ」


 次の瞬間、会場は阿鼻叫喚の地獄へと化した。


 王太子が愛おしそうに肩を抱いていたもの。それは、透き通るような肌の美女などではなかった。


 そこにいたのは、どす黒い皮膚に覆われ、黒い血を滴らせた、禍々しき大悪魔。


「サ、サタン……っ!?」


 ギャラントスは腰を抜かし、無様に這いずり逃げ出した。


「チッ、もう少しでこの国を内側から食い荒らせたものを……!」


 正体を晒したサタンは不気味な声を残し、黒い霧となって夜の闇へ消えていった。


 その後。サタンと婚約し、あまつさえ国を危機に晒したギャラントスは即座に王籍を剥奪。


 たった一人、孤独な戦いを続けていたレヴィーチェは、「悪魔を追い払った気高き令嬢」として幸せに暮らし、王国の歴史にその名を刻むことになったのである。

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― 新着の感想 ―
悪魔アッサリ退場しすぎだろwww あと名前もサタンてw 本名なら大物すぎるし騙りなら本物にギタギタにされること請け合いだわ<悪魔
サターリアって!正体バラしてますがな! 初っ端から白状しちゃダメですって作者さん! これはコメディですね? 散々攻撃(殺る気満々)されても余裕で「バレたからにはオサラバだぜ、あ〜ばよとっつぁ〜ん!」…
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