嘘がまことに
王都での一件から三ヶ月。
お兄様のついた「私は重度の聖女オタク」という嘘は、皮肉にもアルトゥーロの中で確固たる真実へと昇華されていた。
そして今…私たちは隣国との国境付近、魔物の大群が押し寄せる最前線にいる。
最近スタンピード多くない?
隣国の罠か何か?
いや、邪推はやめておこう。
真実がどうであれ、私には何もできないし。
今回の王家による聖女召集。
表向きは〝聖女レイナ〟の初の〝戦場〟であり他の聖女にとっても輝く場だが、実態は私の魔力供給による〝広域防衛〟の場となるだろう。
「お姉様、あんなの無理よ! 数が多すぎるわ!」
馬車の中で震えるレナ。
外ではアルトゥーロ様率いる騎士団が、押し寄せる魔物の群れを必死に食い止めている。
「大丈夫よ、レナ。貴女はただ、馬車の窓から身を乗り出して、その今日のために買った杖を高く掲げていればいいわ」
私は馬車の床に座り込み、祈りに集中する。
三ヶ月の間に私は応援という名の魔力供給の技術をさらに磨き上げ、聖女の力とバレないほどに隠蔽できるよう完璧に仕上げていた。
「いくわよ。推しよ、世界を照らしなさい!」
私がバカみたいなセリフを吐きながらも床に両手を突き、全魔力を一気に解放した瞬間。
レナの持つ杖から戦場全体を飲み込むほどの、黄金の魔力が放たれる。
数千の魔物が一瞬で散り散りに逃げ出す。
もう一回やる。
今度は傷ついた騎士たちの傷がみるみる塞がっていく。
よし、ミッションコンプリート。
身体を床から起こして馬車の座席に座り直す。
その時。
激戦の最中、乱れた髪を振り払いながらこちらを振り返ったアルトゥーロ様とバッチリ目が合ってしまいました。
私は馬車の床で必死に汗を流しながら、まだ魔力の光を全身から溢れさせていた。
早くおさまれ。
アルトゥーロ様から見たらきっと、〝聖女である妹のために、命を削ってまで念を送っているやばい姉〟にしか見えないだろう。
やだぁ。
「…またか。またあの『聖女への愛』の魔力か……!」
アルトゥーロ様は剣を鞘に収めると、戦場だというのに呆然とした足取りで馬車へ近づいてきた。
「イサベル嬢。…君という人は、そこまでして……。自分の命を灯火のように燃やしてまで、妹を輝かせたいのか」
彼の瞳にはもはや恐怖すら通り越し、聖者を拝むような深い敬意が宿っていました。
「見てくれ、この光を…君の『応援』が具現化した結果、魔物のスタンピードのせいで踏み潰されていた大地に花まで咲き始めたぞ……これほどの力を放てる人間を、俺は他に知らない」
都合が良いのか悪いのかわからないな、この勘違い。
「騎士団長様…レナが……無事なら、私は………」
私はわざとらしく、魔力切れを装ってフラリと馬車で横になる。
「無理をするな! …おい、誰か! イサベル嬢に魔力回復ポーションと、あと……『妹君のブロマイド』を持ってこい! 彼女の精神を安定させるんだ!」
妹のブロマイドなんていらないのだが。
目の前に本人いるし。
魔力回復ポーションは欲しいけど。
そんな私の内心など知らずに、アルトゥーロ様はあまりに強すぎる〝妹への愛〟に心の底から納得した様子で頷く。
「分かった。君のその『狂気』…いや、『純愛』。俺が一生かけて、守り抜くと誓おう」
戦場に咲き乱れる花々を横目に、私は「もう二度と、普通の令嬢には戻れない」という確かな予感に、遠い目をするしかなかった。
誰か助けて。




