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お兄様のまさかの嘘

王宮の、聖女の奇跡に大盛り上がりの後参列者が散り散りに帰り静まり返ったその場所で。


聖杯の浄化を終えた後、鋭い眼光のアルトゥーロ様が舞台裏まで来て私の肩を掴もうとしたその瞬間。


「―…おっと、我が愛しの妹に何か用かな? 騎士団長殿」


間に割って入ったのは我が家の誇る天才、ビクトル兄様。


兄様はいつもの微笑みを湛えつつも、その背中からは「妹には指一本触れさせない」という威圧感を放っていた。


「ビクトル殿…君の妹、イサベル嬢に少し聞きたいことがあってな。先ほどの聖杯の輝き、あれは彼女が……」


アルトゥーロ様の追及を遮るように、兄はわざとらしく深い溜息を吐く。


そしてアルトゥーロ様にその件で話があると人払いすると、声を潜めて『とんでもない告白』を始めた。


「…隠し通せると思ったが、やはり貴方の目は欺けなかったか。ならば真実を話そう。実は……ベルは『重度の聖女オタク』なんだよ」


「…は?」


アルトゥーロ様が呆然と声を漏らす。


私も固まる。


お兄様、今なんて?


「ベルは昔から目立つのが嫌いでね。だが、妹のレナが聖女の力に目覚めたことが嬉しくてたまらなくて…四六時中、レナのために魔力で『応援』を送っているのだ。先ほどの光が異常だったのは、ベルの執念に近い『聖女である妹への愛』という名の魔力がレナの魔力と共鳴した結果だろう」


「共鳴?応援だと?」


「そうだ。ベルはレナのファン第一号。レナが輝くためなら、自分の存在など消えてもいいと願っている、少し…いや、かなり変わった癖の持ち主でね。今日も、レナのブロマイドを忍ばせて、陰から熱烈な念を送っていただけなんだ。ねぇ、ベル?」


兄が私に「合わせろ」と目で合図を送る。


私は顔を羞恥で真っ赤に染め…それに気付かれたくなくて、俯いてプルプルと震えて見せた。


「は、はい…。レナが、世界で一番輝いてほしくて……。私のような日陰者は、ただ、推しの…いえ、妹の光を浴びていれば幸せなのです……」


「………まじ?」


アルトゥーロ様はもはや絶句。


王宮最強の騎士団長といえど、「ガチすぎる聖女オタクの執念」という斜め上の理論をぶつけられては困惑するしかないのだろう。


「…では先日、俺を助けた時のあの力も……彼女が妹を『応援』していたついでだとでも言うのか?」


「ああ、おそらくその時もレナの健やかな成長でも祈っていたのだろう。ベルのレナへの祈りは、時として本人が意図せずとも周囲を巻き込んでしまうほど重いからね」


兄は爽やかに笑い、私の肩を抱いてその場を去ろうとする。


「というわけで騎士団長殿、ベルはただの『ちょっと愛が重すぎる聖女信者』なんだ。不気味に思ったら申し訳ないが、他言は無用にお願いするよ」


こうしてアルトゥーロ様の「私=真の聖女説」は、お兄様の嘘によって「私=聖女過激派オタク説」へと上書きされてしまった。


よかったのか、悪かったのかは…考えたくない。

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