【BOG-47】DRAGON SLAYER
2132/06/01
19:55(UTC-6)
Springfield(Illinois),United States of America
Operation Name:DRAGONBEAT
ゲイル隊、ブフェーラ隊、プロキオン隊、デアデビル隊――そして、ブリーフィングに招集された全てのドライバー及びパイロットへ告ぐ。
勇敢なる諸君らに集まってもらった理由は分かるはずだ。
……フッ、察しが良くて助かる。
本作戦はこの戦争において最も重要な戦いの一つとなるだろう。
聞いてませんでしたじゃ済まされないぞ、いつも以上にメモは真剣に取っておけ。
後で私に見られても叱責されないようにな。
先日、我が軍の主力航空部隊は「ラストリゾート作戦」の一環としてモニュメント・バレー上空の制空権確保を担当。
想定外のアクシデントはあったが、ゲイル隊及びプロキオン隊の活躍により作戦目標は達成され、ホワイトウォーターUSAを亡き者とすることに成功した。
同業者であるWUSAを潰したスターライガ率いるプライベーター同盟は、ルナサリアンの輸送艦隊を撃滅するために宇宙へ上がるそうだ。
参謀本部の噂ではレティ総司令官直々の依頼らしいが、詳しい内容はよく分からん。
一つだけ断言できるのは、超兵器撃墜作戦において彼女らの支援は得られないということだ。
どうせならもう一狩り付き合ってほしかったが……まあ、誰にだって事情はある。
超兵器――「ドラゴン」討伐はオリエント国防軍第8艦隊の全戦力とアメリカ軍及びカナダ軍の残存戦力で果たすしかない。
では、作戦内容について説明する。
アメリカ空軍の総攻撃を退けた「ドラゴン」は北上を続けており、このまま行けば五大湖沿岸地域の真上に現れる。
おそらく、ヤツの目的はデトロイトやシカゴといった工業地帯の完全破壊だ。
五大湖沿岸地域はアメリカの兵器生産能力の最後の砦である。
ここを失ったらアメリカ軍は兵器を揃えることすら難しくなり、市民生活へ悪影響が及ぶ可能性も否定できない。
生活水準が低下すれば国家に対する不満が蓄積し、ルナサリアンにアメリカ本土へ付け入る隙を与えることになるだろう。
自己保身のための無血開城――大統領府は各都市が自ら侵略者の手に堕ちることを危惧している。
……まあ、アメリカ国内の駆け引きなどオリエント人には関係無い。
我々は我々の仕事を果たすまでだ。
もしかしたら噂で耳にした者もいるかもしれないが、「ドラゴン」には極めて強力なバリアフィールドが搭載されており、アメリカ空軍の総攻撃は全て無効化された。
驚くべきは我々が実用化しているバリアフィールドはレーザーしか防げないのに対し、ルナサリアンのものは限定的ながら実体弾さえ防いだことだ。
どうやら、光学兵器の技術レベルに関しては相手のほうが高い水準にあるらしい。
……これだけ聞くと「ダメージを与える手段が無いじゃないか」と思うかもしれない。
確かに、元々バリアフィールドと相性が悪いレーザーで無理矢理貫くのは至難の業だろう。
だが、先ほども言ったはずだ。
実体弾に対する防御力はあくまでも「限定的」であると。
アメリカ空軍は「ドラゴン」のバリアフィールドの前に惨敗を喫したが、同時に貴重な情報をもたらしてくれた。
まず、高い防御力を誇るバリアフィールドといえど無敵ではなく、実体弾による集中攻撃を加えれば「穴」を開けられる可能性がシミュレーションで導き出されている。
そして、バリアフィールドは「ドラゴン」全体を覆う球状に展開されるため、内側に飛び込めばレーザーでもダメージを与えられるはずだ。
最後に……これは絶望的な情報だが、バリアフィールドの展開には時間制限が無いと考えられている。
アメリカ空軍との戦闘では交戦開始から撤退時まで、常にバリアフィールドが「ドラゴン」の巨体を護っていたという。
この報告が事実だとしたら、何としてでも「穴」をこじ開けバリアフィールドを無力化しなければ、我々に勝ち目は無い。
撃墜作戦に失敗した場合、被害状況にもよるが再攻撃はおそらく不可能だろう。
……負けたら取り返しのつかない、まさに一発限りの大勝負というわけだ。
また、エドモントンや先の航空作戦で猛威を振るった「アポローン」及び無人護衛戦闘機――コードネーム「ゴースト」といった、「ドラゴン」の搭載兵器が使用される可能性も非常に高い。
ゲイル隊などの活躍で「ゴースト」に関しては数を減らすことに成功しているが、「アポローン」については搭載されているのかさえ不明である。
少なくとも、アメリカ空軍の総攻撃時には発射は確認されていない。
とはいえ、十数発でエドモントンを焼き払える戦略兵器だ。
自陣の中へ撃ち込まれた場合、一網打尽にされてしまうことは容易に想像できる。
そこで、本作戦では「戦力の逐次投入」という愚策を敢えて犯す。
厄介な護衛戦力を排除する遊撃隊、高火力実体弾兵器を以ってバリアフィールドの突破を試みる先遣隊、そして「ドラゴン」への直接攻撃を行う本隊という三段構えの戦術を展開する。
無論、戦局によっては遊撃担当の部隊が先遣隊や本隊の補助へ回ることもあるだろう。
その辺りはAWACSや戦闘指揮所の指示の下、臨機応変に対応してもらいたい。
さて、各部隊がどの作戦フェーズへ割り振られているかはブリーフィング後に通達するが……最も過酷な遊撃隊に関してはここで発表しよう。
ゲイル、ブフェーラ、ヘカテー、アルバトロス――第8艦隊の代表として、機動力に優れたオーディールを駆る部隊を送り込む。
君たちの卓越した実力を見込んだ、艦隊司令官サビーヌ中将の判断である。
アメリカ空軍及びカナダ空軍から派遣される部隊と協力し、護衛戦力の排除に務めてくれ。
我が艦隊の主力戦艦「フェルツァー」「サングリエ」及びミサイル巡洋艦「アドミラル・エイトケン」は先遣隊、残りの艦艇と航空戦力は本隊として参加させる。
今回は総力戦だ。
作戦行動可能な機体は全力出撃し、艦隊まで攻撃が及ぶ前にケリを付けるぞ。
おそらく、本作戦は開戦以来最も過酷な戦いとなるであろう。
国防軍参謀本部は参加戦力の40%が失われると予測しており、作戦終了後は成否関係無く補給のために本国へ帰還する予定だ。
約3か月もヨーロッパや北アメリカという慣れない土地で戦い続け、もうそろそろ祖国が恋しい者もいるかもしれない。
ならば、超兵器撃墜という最高の土産話を持って帰ろうじゃないか。
――総員、心に槍を掲げよ!
その槍を以って我々は「ドラゴンスレイヤー」になる!
「ストラトタンカー4よりゲイル隊、機体のチェックができ次第補給態勢を取れ」
往年の名機KC-135の愛称をコールサインとして受け継いだ、アメリカ空軍空中給油機の機種は「KC-787 ユニコーン」。
カナダ空軍が運用するCC-180とは異なり、3機のMFに対して同時に空中給油を行うことができる。
アルバトロス隊、ヘカテー隊、ブフェーラ隊と順々に補給を受け、最後にゲイル隊が給油位置へと就く。
この辺りのドライバーなら一発で決められて当然だ。
「3機とも完璧だな! 我が軍のMF部隊にも見習ってほしいものだ」
「こんなの、目を瞑って手放し運転でも楽勝さ」
予備機の調整を終え戦線復帰したアヤネルはこんなことを言っているが、本当に実行するのは勘弁してほしい。
「ハハッ、タンカーにカマ掘って落ちるのがオチだぜ――冗談はこれぐらいにして、補給を開始するぞ」
今、KC-787から曳航されているホースを介してオーディールMにE-OS粒子及び推進剤が送り込まれている。
武装をペイロードが許す限り搭載した結果、重量増加により航続距離が低下してしまったのだ。
G-BOOSTERを装備したうえで省エネ飛行を心掛けたつもりだったが、僅かながら戦闘空域まで届かなかったらしい。
技量が高いセシルでさえこれなので、スレイやアヤネルの場合は間違い無く推進剤不足になっていただろう。
「ゲイル隊、補給が完了した。俺たちタンカーにできることはこれぐらいだが……必ず生きて帰れよ」
サムズアップをしながらゲイル隊を見送る給油オペレーター。
任務を果たしたKC-787はホースを格納し、所属する基地へと戻って行く。
現在時刻は中部夏時間の19時41分。
エドモントン解放作戦では夜明け前に攻撃を仕掛けたが、今回は日没直後の宵闇に紛れるカタチで「ドラゴン」へと接近する。
乗用車よりも少し大きい程度のMFならば、低空飛行を行うだけでレーダーへ捕捉される確率を一気に減らすことができるのだ。
「ポラリスよりオリエント国防空軍の遊撃隊各機、そこから先は敵超兵器の攻撃可能圏内に入る。いつ攻撃を受けてもおかしくない状況だ、気を引き締めろ」
AWACSの言う通り、セシルたちは「ドラゴン」の目と鼻の先へ着実に接近している。
迂闊に高度を上げたら「ゴースト」や「アポローン」がすかさず飛んで来るだろう。
目視可能な距離へと近付くまでの間、地上の様子が分かるほどの低高度を維持するしかない。
「ゲイル1、了解」
「ブフェーラ1より各機、話は聞いたな? まだ焦るような時間じゃないぞ」
「こちらヘカテー1、了解。ここでしくじるほどバカじゃないわよ」
「アルバトロス1、了解!」
3機×4個飛行小隊――合計12機の蒼いMFはゲイル隊を先頭に編隊を整え、白き龍が待つ戦場へと急ぐのだった。
【心に槍を掲げよ】
オリエント国防軍において将兵が気合を入れる時に使う文言で、「真っ向から突っ込む!」といった意味合いを持つ。
ちなみに、現代オリエント語では「コーイース(心)-グングニール(槍)-リトリッド(掲げる)」と言う。




