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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-46】月と星と

「ホワイトウォーターUSAは壊滅したみたいね」

大型スクリーンに映る女性の言葉から同情心は感じられなかった。

むしろ、「彼らが勝手に破滅してくれてよかった」と言っているようにも思える。

「ええ、一応無人戦闘機を援軍として差し向けたのですが……間に合わなかったようです」

「構わないわ。これで、私たちが本当に懐柔すべき相手を見定められたもの」

もっとも、ルナサリアンの将兵の大半はWUSA(ウユーザ)との同盟関係がすぐに破綻すると予想していた。

私利私欲のためならば侵略者への鞍替えすら辞さない野蛮人と共闘することなど、初めから無理だったのだ。

そして、スクリーンに映る女性が語る「本当に懐柔すべき相手」とは……。


「次の攻撃目標は五大湖沿岸の工業地帯でしょう? あそこを徹底的に潰せば、アメリカは完全に工業生産能力を断たれる」

地球侵攻作戦において課題とされたのが対アメリカ戦略である。

高い工業生産能力を持つこの国と総力戦を繰り広げるのは自殺行為に等しいため、ルナサリアンはカナダや中南米諸国を確実に攻略しつつ地元空港を接収。

軍事拠点化した空港から戦略爆撃機を毎日のように発進させ、アメリカ国内の主要工業地帯を再建不能なレベルにまで焼き払っていたのだ。

工業地帯だけを正確に狙い澄ました戦略爆撃は効果覿面(てきめん)であり、アメリカ軍が投入してくる兵器の質と量は低下の一途を辿っている。

……アメリカのマスメディアは「戦況が均衡状態にまで戻った」と報じているが、それは大統領府の強がりにすぎない。

事実、ルナサリアンは首都ワシントンD.C.に対する直接攻撃計画を秘かに進めており、その準備は最終段階へと至っていた。

この作戦が成功を収めれば、少なくともアメリカ大陸での戦いは遅かれ早かれ終結を迎えるだろう。


「お任せ下さい、オリヒメ様。この『ヤマタオロチ』の力を以って必ずや工業地帯を消し去り、アメリカ軍を徹底的に追い詰めてみせましょう」

ヤマタオロチ――。

それがカルガリーとエドモントンを灰燼(かいじん)に帰し、アメリカ空軍の総攻撃を一蹴した超兵器「ドラゴン」の名前だった。

「フフフ……今更泣いて降伏するか、それとも国民を巻き添えにしてまで徹底抗戦するか……野蛮人はどちらを選ぶのかしら?」

スクリーンの中の女性――アキヅキ・オリヒメはそう言いながら不敵な笑みを浮かべる。

その表情を見たヤマタオロチの艦長は背筋に寒気を覚えた。

「……我々としては前者を望みます」

通信を終えた後、緊張感から解放された彼女は艦長席にドスンと腰を下ろす。

「(気になるのは『オンリョウ』と互角以上に戦い、撃墜した連中の存在だ。おそらく、次に来るのは奴らか……!)」

艦長は天井を見上げながら、ヤマタオロチと対等に戦えるであろう好敵手に思いを馳せるのだった。


 一方、ここはスターライガの母艦「スカーレット・ワルキューレ」の艦内食堂。

昼の12時過ぎということで書き入れ時を迎える中、ライガとレガリアはオリエント国防軍経由で入手したアメリカ空軍の作戦報告書を確認していた。

本来なら軍事機密として外部に出回ることの無い作戦報告書だが、これを入手できたのはやはりライガの持つ「コネ」が大きい。

「アメリカ空軍の連中、ヤマタオロチ相手にボコボコにされたようだな」

「目に見えていた結果ね。彼らはルナサリアンの兵器開発能力を過小評価し、詳細なリサーチを怠ったまま無謀な決戦を挑み――そして惨敗した」

もちろん、自分たちスターライガなら絶対に勝てたとは言わない。

だが、少なくともアメリカ空軍のような無様な負け方はしなかったはずだ。

結局のところ、慢心と見積もりの甘さが彼らを敗北者にしたのである。


「でも、『あの娘たち』なら大丈夫なはずよ」

ホットティーを飲みながら微笑むレガリア。

「……そうだな。ジャイアントキリングは若い連中に任せて、俺たちは宇宙で自分の仕事を果たさないとな」

北アメリカ戦線が膠着状態となっていることに焦りを抱いたのか、ルナサリアンは宇宙からの直接支援によってそれを打破しようとしている。

工業大国アメリカの兵器生産能力が激減している今、大量の援軍や物資を送られたら戦況は一気に傾くだろう。

物量作戦に持ち込まれるのを避けるため、スターライガを筆頭とするプライベーター同盟はカリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地から宇宙へ上がり、ルナサリアンの輸送艦隊を攻撃する依頼を請け負っている。

……もっとも、輸送艦隊に対する攻撃は一種のカモフラージュであり、本当の目的は輸送艦よりも遥かに危険な存在を破壊することであった。


「――なるほど、普通に考えれば非常識な作戦とはいえ、私のクラッキング技術ならば不可能ではないわね」

ルナサリアンの行政府にあたる月の宮殿――通称「ゴショ」の地下には最高機密レベルの危機管理室が存在する。

核攻撃や地中貫通爆弾にすら耐え得るこの部屋に入れるのは、月の民の中でもごく一部の人間だけだ。

指導者のオリヒメを始めとするアキヅキ家の関係者に政府及び軍事武門の高官たち――そして、オリヒメが客将として招き入れた地球人の女科学者。

軍事武門トップのアキヅキ・ユキヒメは異邦人の重用へ苦言を呈していたが、妹の警告にオリヒメが耳を傾けることは無かった。


「アメリカ軍のミサイル基地をクラッキングし、制御システムを完全に掌握して巡航ミサイルを発射。敵味方識別装置が働かないことを利用した同時奇襲攻撃で3箇所の目標を破壊せしめる――フフッ、えげつないけど興味深い作戦だと思うわ」

オリヒメの立案した「えげつない作戦」を聞き、地球人の女科学者は笑顔を浮かべる。

「鹵獲した敵兵器の有効活用よ。野蛮人どもにとっては手に余るシロモノだけど、我々の聡明な頭脳を以ってすれば最大の戦果が期待できる。博士、この作戦の実行に当たって用意した電子攻撃技術者――貴女の星の言葉で言う『クラッカー』の使い勝手はどうかしら?」

資料へ目を通しながら冷静に問い返すオリヒメ。

彼女は月の統治者となった際に「高度情報化社会の実現」を掲げ、その一環として国家レベルでのハッカー及びクラッカー育成を推し進めていたのだ。

時には少々強引な手段さえ用いたが、今では義務教育へのプログラミング授業導入という成果を挙げている。

専門教育を受けなければ初歩的なレベルに留まるとはいえ、地球人の女科学者からすれば驚くに値するものだった。

何せ、彼女の母星には科学文明を否定する者どもが未だに存在するのだから。


「そうね……筋は悪くないわ。人工衛星よりは苦労するかもしれないけど、問題は無いでしょう」

地球侵攻作戦が始まる数か月前、ルナサリアンはクラッカーの実践演習も兼ねて地球側の人工衛星に対する大規模サイバー攻撃を実行した。

これによる人工衛星の機能停止は地球側の主要国も察知していたが、原因を掴むことができず最終的には「小規模なケスラーシンドロームによる人工衛星の同時破損」として処理されたという。

……この時、真剣に金と時間を掛けて調査を行えばよかったのに、地球人とはなんと愚かなのか。

安寧の中で生まれた隠蔽体質が慢心となり、結果として戦争の初動を遅らせたのである。

そして、平和という名の停滞は人類社会を内側から徐々に腐敗させ、ホワイトウォーターUSAという裏切り者を発生させたのだ。


「ククク……条約違反という大罪を犯してまで開発した核ミサイルが自国都市へ降る皮肉――その身を以って味わうといいわ」

女科学者の狂気を孕んだ笑みをオリヒメは見逃さなかった。

未だにこの人は本当に地球出身なのかと疑問を抱くことがある。

さすがのオリヒメも最初は核兵器の使用を躊躇ったのだが……。

「(『星落とし』という禁忌を犯した以上、もう後戻りはできない)」

一度背負った罪は死ぬ時まで重く()し掛かり続けるのだ。

人類史上最大最悪の虐殺者――その手段に異星人が住まう人工の大地を利用したという、未来永劫まで消えることの無い罪。

「(私は立ち止まらない。私を止められるのは……スターライガ、あなたたちだけよ)」


 開戦から約3か月、北アメリカ大陸の戦いは終局を迎えようとしていた。

結末は二つに一つ。

首都ワシントンD.C.の壊滅によるアメリカの敗北か、超兵器損失によるルナサリアンの敗退――。

このどちらかだ。

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