第9話
叉胤がナシュマの手をギュッと握っている。
「仲直りしたか?」
「うん。あのね、クラウドさん……道が消えるってこと気にしないで欲しいんだ。それにナシュマとも、もっと良く話し合うことにするから。気にかけてくれてありがとう」
「いや。無理をしてないのならいいのだが」
「してないよ。オレは人間の世界が大好きなんだ。ナシュマの気持ちは嬉しいけどね」
笑顔を見せた叉胤の頭をナシュマが撫でた。後は二人の問題だろう。
「さて、俺は一度戻るよ。まだ鵠僖との話が済んでいないんだ」
「えー。ボクもう待てないよ!」
「そうだ。じゃあさ、カズキ君もヨハンと一緒に付いて来てくれる? そしたらさ」
「行く」
「オレとナシュマはここで待ってる。行ってきて」
そして再び階段を下りて木の扉を開けた時だった。
「クラウドさん、会いたかったっ!」
昂揚した少し甲高い声が聞こえ、白夜がクラウドに抱きついてくる。腕にいるカズキが必死に彼を押し退けた。
「白夜、それは困る。離れてくれると嬉しいのだが」
「ちょっとアンタ! クラウドに何するんだよ!」
「熱烈歓迎だな」
ヨハンが苦笑しながら白夜の体を柔らかく引き離す。
「冗談じゃないよ! ボクのクラウドに触るなぁ!!」
空気がびりっと震え、ガラスにひびが入った。
「白夜」
「はい、鵠僖様」
白夜がカズキの耳を両手で押さえると、カズキの体から力が抜け落ちる。クラウドはすぐに呼吸を確認して頬に掌を当てた。どうやら眠っているだけのようだ。
「カズキに何をした」
「怒らない。ねむった。ぼうそうだ。ボクは、カズキと同じだから、ぼうそう止められる」
そう話した白夜の腕の皮膚に赤い筋が入り、体液がとろりと流れる。鵠僖が白夜を呼び寄せ血止めの処置を施した。
「だいじょうぶ。痛みはない」
「さてクラウド、お前達の旅に白夜を同行させろ。今見た通りカズキの力を抑えただけ、白夜の体に負担がかかる。守人がどれだけ召喚士を制御できるのか見せてもらうぞ。お前の細胞を貰おうかと思ったが、こちらの方が興味深い」
「それがお前の実験か。白夜を巻き込むな」
「そもその召喚士では力が不安定すぎて分離など夢のまた夢だ。自らの力に飲まれ自滅しようよ。全てはお前が召喚士を導いてやれば話は済むこと」
クラウドは思案する。確かに以前に比べて、周りに影響の出る暴走が多くなっている。それがカズキのためになるならば、鵠僖の話に乗ってみるのもいいかもしれない。
腕の中の小さな体が身じろいだ。
「ぅぅ……クラウド、今何があったの?」
「良かった、カズキ……」
薄く開かれた唇に口づける。カズキの暴走が治まるにしても、そのたびに彼が意識を失うのはもうたくさんだ。白夜にも負担がかかる。二人のためにも、もう抑止をさせたくはない。そして自分の力量を知る好機にもなるだろう。
「――分かった。白夜を連れて行こう」
「え? 何だか分からないけど、ボクはヤダよ! こんな奴連れて行くなんて!」
「カズキ、理由は後で話す。皆もいいだろうか?」
「僕は構わないよ。よろしくね、白夜君。僕はソギだよ」
「みんな分かる。鵠僖様に教えてもらった。外にいるのは叉胤とナシュマ、コレはこそくな筋肉」
無表情な白夜がヨハンを指差す。ヨハンが苦笑しながら肩を竦めた。
「言い得て妙だね。ナシュマの方が合ってる気もするけど」
「納得すんなカズキ。俺はヨハンだヨハン! くっそー、教えたの箏だろ!」
「ふふっ」
「ソギも笑うなよ」
「ゴメンゴメン。そういえば箏、話って何? ヨハンも一緒でいいよね」
「お兄さんいらないけど、まあいいか。ほんとお話したいだけなんだよ~」
にぱっと笑った箏がソギの手を握り、リズミカルに歩きながら奥の部屋へ連れて行った。本当に話をしたかっただけのようだ。
「ふむ。箏のあんな顔見るのは何年ぶりだろうか……そこはお前達に感謝せねばな」
「鵠僖、一つ聞いてもいいか。今、魔界の聖獣がいた場所はどうなっている?」
「……何故気にする?」
「魔界と人間界の分離を目指すならば、人間界だけではなく魔界側の聖獣の情報も必要かと思ってな」
「正論だ。白夜来なさい」
鵠僖が呼び寄せた白夜の額に自らの額をつける。
「場所、いっぱい」
「見えたか? 今教えた場所に守人らを案内してやれ。それがお前の役目だ。クラウド、お前の仲間が箏を笑顔にさせた褒美よ」
「うわっ、上から目線」
「こらこらカズキ。鵠僖、ありがたく頂戴しておくさ」
「うむ。白夜、たくさんの物を実際に見て、そして感じてくるのだぞ」
「はい、いってきます」
「本当に一緒に行くの~? クラウドに近づいたらダメだからね」
「カズキの気持ちを落ち着かせようか」
唇が一番の特効薬。クラウドはカズキの唇を指で撫で、深く口づけた。




