第8話
そんな二人を横目で見ながら箏が頭を掻く。
「ねー、分離ができると仮定して……本気なのー? オレはどうでもいいけど、分離したら、今は繋ぎ止めてある召喚士が創った道が完全に切れるから、白ミミットと妖祁が創る扉じゃ行き来できなくなるよ」
階段を指差し、眉をひそめて続けた。
「叉胤は完全に人間界に取り残される。ナシュマ死んじゃえばアイツ一人ぼっち。せっかくナシュマが自分の死んだ後は、叉胤がこっちに帰るの許して欲しいって咫嘶にお願いして許可もらったのにー。叉胤って前の戦いで禁忌を犯すの分かってながら人間助けて、それから百年以上投獄された結果追放されたんだよねー。でもさ、自分の心に正直なのってオレ嫌いじゃない」
「そんなことが……」
叉胤は自分が想像するよりもずっと辛い経験をしていたようだ。分離を進めるにしても、目の前にある憂いは取り除きたい。それが友人なら尚更だ。
「あ、そうだ。ねーねーソギだっけ。あの子呼んで来てくれない? お話したいんだよねー」
「何を企んでいる」
「あらら、信用ないな。オトモダチになりたいだけだよー」
「クラウド、箏の願いを聞いてやってくれ。こちらはもうしばらく時間がかかる」
「白夜に何を?」
「悪いようにはせんよ」
「……分かった」
嫌がっていないところを見るとそれは信用してよさそうだ。それにナシュマと叉胤にも話がしたい。
クラウドは皆の許に戻り、まずはソギに箏の願いを伝えた。
「オトモダチねぇ……何考えてんだアイツ」
「僕行ってくる。でも、ちょっと不安だからヨハン付いて来てくれる?」
「ああ、勿論」
「ねぇクラウド。壊しちゃってゴメンなさい……」
叉胤からクラウドの腕へ戻ったカズキが、下を向きながら呟く。クラウドは頭を撫でた。
「あの子は無事だったよ。聖獣の力か守人の力かは分からないが、目を覚ました。でもこれからは、ちゃんと力を抑えられるようにしていこうな?」
「うん、頑張る」
頬に口づけ、叉胤とナシュマに向き直る。
「二人に聞きたいことがあるのだが、ちょっといいか」
「んぁ?」
「真偽は定かでないが、分離をすると魔界と人間界を繋ぐ道が消えるらしい。召喚士の遺した道に繋げられる妖祁や、この子の扉も使えなくなるそうなんだ。それをどう思うか聞いておこうと思ってな」
「みぃ……」
「マジかよ……そりゃ困る」
「どうしたのナシュ?」
案の定ナシュマが髪をぐしゃりと掴んだ。そんなナシュマを叉胤が不思議そうに見つめる。
「言ってなかったのか?」
「ああ。人生最期に格好よく決めようと思ったのによー。二年で打ち止めかよ」
「意味分かんない。はっきり言えば?」
「二年前、咫嘶に頼んだんだよ。俺との時間が終わったら、叉胤が魔界に戻ること許して欲しいってな」
「……ナシュの馬鹿ぁ! 全然格好よくない!」
「へぇっ?」
突如として叫んだ叉胤がナシュマを睨み、子供のようにふて腐れながら少し離れた瓦礫の陰に姿を隠してしまった。
「追いかけろ、兄貴」
「俺何か悪いこと言ったか?」
「そんなの自分で考えろよ。とっとと行け」
「う、分かったよ。冷たい弟だな」
ぶつくさ言いながらナシュマが叉胤を追いかける。それを見ながらカズキが首を傾げていた。
「叉胤どうしたのかな」
「多分だけれどね、死に別れる時のことを、今はまだ考えて欲しくなかったのではないかな。俺達と違って、叉胤とナシュマは生きる時間の長さが違うから、少しでもと思ったのだろう」
「そっか」
「お互いの思いがすれ違っちゃうと、喧嘩になるんだよね」
「ふーん。ボク、クラウドと喧嘩したことないよ」
「そりゃ~クラウドがお前の操縦上手い大人だからだ」
「なにそれっ」
「ヨハン、変なこと言わないの。カズキ君がクラウドさんのこと誰よりも大好きで、クラウドさんもカズキ君のこと大切に思ってるからだよ。そのバランスが上手くいってるから喧嘩にならないのかな」
「うん。これからもクラウド大好きでいようっと」
納得したのか、カズキがパッと明るい笑顔を見せる。
「あ、そういや兄貴達は放っといて大丈夫だぜ。喧嘩すんのはいつものこった。しばらくすれば仲直りする。あいつらにとっちゃ喧嘩も悪いことじゃない。ぶつかって互いの想いを深めていくってな」
「ふーん。でもボク喧嘩は嫌だな。胸がちくちくするんだ」
「カズキとだけは喧嘩できないよ」
クラウドは苦笑した。それは本当のこと。カズキが想ってくれている以上に、自分はカズキにベタ惚れなのだ。
そしてヨハンの言う通り、叉胤とナシュマが手を繋いで戻ってきたのはすぐのことだった。




