第7話
「さて、話はこれで終いだ。守人以外はお帰りいただこうか」
「や、やだよ! ボクはクラウドと一緒にいる! 変なことしないように見張ってるんだ!」
「カズキ……」
クラウドは首にギュッと抱きついたカズキの頭を撫でる。
「必要はないと言っている。箏、連れ出せ」
「はーい。ほら行くよー」
「ヤダっ!」
箏がカズキの腕を取った瞬間、複製が入った一本のガラス管が砕け散った。辺りに水が侵食し、ごとりと音を立てて管に入っていた少年が転がった。
「ぁ……」
「カズキ、落ち着きなさい。俺は大丈夫だから。カズキがいる限りいなくなったりはしないと言っただろう? だから、皆と待っていて欲しい」
「……うん。分かった、待ってる」
後ろめたさがあったのか、床に転がる体を見つめながらカズキが小さく頷いた。
「いい子だね。叉胤、カズキを頼めるかい?」
「ああ、任せてくれ」
「終わり次第すぐに戻るよ」
階段を上る彼らの後ろ姿を見送り、クラウドは床に転がっている少年を抱き起こした。銀色の髪が、白い肩をさらりと撫でながら落ちていく。
「良く出来ているだろう」
「この子も一人のヒトだ。決してモノではない」
「動かぬ物は未だ作品に過ぎんよ。自我を持って動き始めた物は者となろう」
「こうして目覚めなくともヒトはヒトだ」
羽織っていたマントで少年の体を包み、額に手を当てた。少年は息をしていない。
「覚醒なく培養液から出たそれは二度と目覚めることはない。お前の言葉を借りれば死んでいるのと同じことよ」
「なぜ、そんな悲しいことを平然と言えるんだ……」
「答える義務はないな」
カズキと違うとは分かっていても同じ顔、同じ体だ。息をせず動かぬ彼を見ているのは忍びなかった。何もできない自分が悔しく、クラウドは少年の体をきつく抱きしめる。
刹那、腰に下げていた剣が、まるで意思があるように高音を奏で強い光を放った。
「……ッ!?」
「うわぁ、びっくりしたぁ。……ぁっ!」
箏が驚いたように少年を覗き込む。小さな呻きと同時に少年が身じろぎ、紫色の瞳が開かれたのだ。肌は相変わらず冷たいが、僅かに鼓動が感じられる。
「ほぉ、驚いたな。箏、服を用意してやれ」
「はーい。可愛いの用意してあげるねー」
クラウドは、箏と共に歩む少年を見つめた。奥の部屋に入る前に少年がこちらを向いて、あどけない笑顔を見せて手を振ってくる。
「目覚めた、のか?」
「ああ、生命反応は正常だ。あれは召喚士と全く同じもの、守人のお前の力が何かしら作用したのかもしれぬな。最盛期にもお前ほどの力を持つ者はいなかった。それも聖獣剣に選ばれた者故か」
「聖獣剣……」
柄を握った。少年が目覚める前、この剣が今までにない光を放ったのだ。守人の力というよりも、聖獣の力を宿すこの剣が命を与えてくれたのかもしれない。
「懐かしいな」
「これを知っているのか?」
「卯龍が守人に与えた剣だ。人間界では教会に伝わっていたのだな」
「ああ。教会の騎士に与えられる紋章剣は、この剣が元になっているそうだ」
「なるほど、召喚士を護る守人、番人を護る騎士は同一か。召喚士の複製、足りぬのは守人だな」
「足りる足りないの問題ではない。守人はあの子が決めることだ。鵠僖、あの子にはカズキとは別の名をあげてくれないか?」
「ふむ。守人よ、お前はあれにどのような生き方を望むのだ」
「そうだな、彼には……常しえに明るい道行を願うよ。カズキと同じ顔をしているが、違う一人の人間なんだ」
「――白夜」
「え?」
「あれの名だ。昔はな、薄く白んだまま夜の空が闇に包まれぬ日があったのだ。それを白夜と呼んだ。白い夜、常に明るい夜空だ。お前の望む生き方に合う名だと思うが」
「白夜……」
願わくは少年に闇が訪れぬように。クラウドは頷いた。
「いい名だ。ありがとう」
「礼を言われるほどのことではない」
「鵠僖サマお待たせ~」
弾んだ声で箏が扉から出てくる。カズキと対照的な黒い服を与えられた白夜が、恥ずかしそうに扉の陰から顔を覗かせていた。
「こちらへ来なさい。クラウド、しばし実験に付き合ってもらうぞ」
鵠僖が白夜を呼び、掌で瞳を覆うと何かを耳元で囁いた。




