第6話
「どのように分離を行ったか、だったな。少し昔話をしよう。――あの頃この世界は光と緑に覆われていた。しかし今以上に血生臭い世界だった。魔族による人間狩り故な」
「それで人間が減って、卯龍の大切な人が殺されちゃって分離したんでしょ? その話の筋はいいから方法教えて」
「雑だがその通りだ。守人たる者を奪われた卯龍は、それ以来毎日のように各聖獣の神殿で祈りを捧げた。人間種を護るために力を貸してほしいとな」
「聖獣との語らいか……」
「少しずつ聖獣の力を蓄えたのであろう卯龍は分離の日、聖獣、つまり自然そのもので都を包んだ。そしてその直後、爆音と白い閃光が辺りを包み、都一帯は聖獣と共に魔界から姿を消したのだ」
「重要なところが分かんない。どうやって分離させたのさ」
「恐らくは聖獣に人間界を創らせ、そこへ都を転送させたのではないだろうか。あの頃の召喚士達ならばそれも可能だっただろう。聖獣の扱いは洗練された見事なものだったからな」
「壮大すぎて理解が追いつかんわ」
ヨハンが頭を掻く。
「でもさ、魔族のあんたが随分召喚士に詳しいんだね」
「私は元人間さ。長く生き過ぎた故、気配は魔族のそれと同化しているがな」
「はぁ?」
「昔は全ての魔族や人間が敵対していたわけではない。召喚士達との交流を持っていた魔族もいた。私は召喚士や風の民と個人的な関係があったのさ」
「あっそ」
「それよりも召喚士、お前は良いのか? 純粋な召喚士としては今やお前一人。それだけのことを一人で行えば結果は自ずと分かるだろう」
「……ッ」
カズキの身体がびくりと震えた。
「カズキ?」
何を知っている?
クラウドはカズキの肩を掴んだ。思わず力が入る。
「卯龍の記憶で何を見た?」
「…………」
下を向いたカズキからの答えはない。いや、これが答えか。
「くそっ」
肩の上で拳を握った。またカズキの悩みに、悲しみに気づいてやれなかった。癒してやれなかった。二年前の苦しみを繰り返したくはなかったのに。
「クラウド……」
眉を寄せたカズキが悲しそうに見つめてくるが、あまりに自分が情けなくて直視できない。鬱々とした気持ちを吐き出すように長い息を吐く。
「おやおや、守人は知らなかったご様子だ」
「余計なこと言わないでよ! 人間界に行った後の卯龍は苦しくて、痛くて……悲しくて……最後は死んじゃったなんてクラウドに言えるわけないじゃん! 言わないのも辛いことだって分かってる! それでもボクはクラウドの悲しい顔は見たくないんだ! だから自分でどうにかしようと思ったのに!」
「傷口に触れさせぬことが優しさとは限らぬよ」
「うるさい! うるさいっ!!」
頭を抱えたカズキの怒りに同調して空のガラス管が次々と砕け散った。
「!!」
クラウドの背に悪寒が走り、カズキを抱き上げその場から三歩退く。その瞬間、二人のいた場所を透明な糸が貫いた。
裸体の箏が肩で息をしながら鵠僖を庇うように立っている。濡れた髪から雫がぽたりと落ちた。鵠僖が机の下から出した黒い布で箏の体を包んだ。
「なぜ出てきた。まだ終了してないはずだ」
「鵠僖サマに危害を加えるならオレの出番だ」
「ふむ、そう急くな」
次の襲撃がなさそうなのを感じ、クラウドは息を吐く。
「クラウド、助けてくれてありがとう」
「大丈夫かい?」
「うん。やっぱりクラウドはボクの守人だね! カッコイイよ!」
そう言って笑ったカズキの笑顔を護ってやりたいと、心に強く思った。
「クラウドさん、このまま分離させる方向でいいのかな? カズキ君の安全が確保できないなら、違う方法も考えた方が……」
「ああ、簡単なことではないとは思っていたが、カズキの命に関わるなら話は別だ」
「でも、あのねクラウド。鵠僖の話聞いてちょっとだけ安心したよ」
カズキが服を掴んでくる。紫色がくるりとした。
「卯龍は守人がいなくなっちゃったんだよね。守人って、すぐにできるものじゃないと思うんだ。分離やった時は卯龍に守人はいなかったんじゃないかな。でも、ボクにはクラウドがいるもん。クラウドは、初めて会った時から今まで何度もボクを助けてくれた。だからクラウドいれば大丈夫だと思う。クラウドはカッコイイ聖騎士で、ボクの大好きな守人だもん!」
「カズキ……」
クラウドは感極まってカズキを抱きしめる。こんなにも信頼してくれているのだ。それに応えられなければ、聖騎士、そしてカズキの守人として名折れとなろう。
「強いんだな、カズキは。お前がやると言うならば、俺はそれに従うまでだ」
「クラウドいてくれるからね。クラウドいなかったらって考えると怖いよ」
「俺はカズキから離れないよ」
「うんっ」
召喚士に守人の存在が必要なように、守人も召喚士が必要なのだと思う。カズキの手を取り、護るという誓いを立てる意味を込めて、手の甲に口づけた。




