第5話
そして皆のところに戻り、準備を整えると魔界へと出発した。
白ナシュマが創った扉から出た場所は、初めて魔界に来た時と同じ遺跡だった。荒涼とした砂漠と崩れた建物を横目に進み、ナシュマの案内で地下へ続く階段を下りた。
先にあるのは薄暗い地下室だ。ランプの明るさだけが部屋を包む。見慣れぬいくつものガラス管の中には銀色の髪が揺れていた。
クラウドは息を飲んだ。
「これは……カズキ?」
「なに、コレ……」
カズキが首にしがみついてくる。背にいる彼の体は震えていた。ナシュマから話は聞いていたが、実際に見ると驚きを隠せない。
五人のカズキがそれぞれガラス管の水中に浮いていた。唯一の違いは、左胸にあるはずの太陽と月の聖獣痕がないということか。
「兄貴が言ってたカズキの複製ってこれか」
「ああ。未だにあったなんてな」
「話には聞いていたけど……ちょっと怖いな」
「ああ。知ってる子が何体もこうしてると気味が悪いものがあるね」
「悪趣味だよ!」
「……誰かいるのか?」
クラウドは、奥の扉の向こう側に人の気配を感じて視線を移す。
「箏か?」
「面白い客だな。人間とは、久方ぶりよ」
ギィッと鈍い音を立てながら扉がゆっくりと開き、足音をさせずに長い黒髪の男が現れた。
クラウドの背中がぞくりとした。生きてはいる。そこにいる。しかしこんなにも生気のない男は初めてだ。
「誰だ?」
「これはおかしな質問だ。私の住家に侵入したのはお前達だろうに」
「……確かに。失礼をしたのはこちらか。我々は――」
「紹介はよい。お前達は件の人間だな? 箏から話は聞いている。私は鵠僖。箏の、そうだな……親兄弟のようなものだ。アイツには師と言われるがな」
「あなたが……」
「箏は今対応できない。代わりに私が用件を承ろう。ここまで来たのだ、ただ遊びに来たわけではあるまい?」
鵠僖が指を鳴らすと、彼が出て来た扉の中から七匹の黒い毛の獣が現れ、クラウドたちの足元に丸くなる。それに鵠僖が腰かけ、促してきた。
「いいの?」
ソギが問いかけると獣が喉を鳴らした。
「ほう、生き物と会話するとは……お前がソギか。長く生きているが、そのような者は人間にも魔族にもいなかった。箏が興味を持つわけだな」
「人間にも……?」
クラウドはカズキを座らせながら眉を寄せる。
「鵠僖さんでしたか、あなた方は一体……」
「鵠僖でよい。――死ぬことが許されぬのさ、私はな。箏はそんな私と生きることを選んでくれたのだ。人間が魔界を去るよりもずっと前からな。信じるも信じないもお前達の自由だが」
彼から溢れるのは深い深い闇色だ。真偽はともかく、業を背負っていることは確かである。
カズキが身震いをした。
「何コイツ……気持ち悪い。普通じゃない! お尻の辺りがムズムズするんだよ。怖いって!」
「落ち着きなさい」
「くくッ……普通ではない、か。構わぬさ、その通りよ。それよりも用件と目的を聞かせてもらおうか」
クラウドはカズキの背を撫でて落ち着かせ、鵠僖へと向き直り口を開いた。
「目的は、人間界そして魔界との分離をし、番人という桎梏に囚われている友を救いたい。召喚士がどのように聖獣の力を行使し、魔界と人間界を分離させたのか存知ないだろうか?」
「ふむ――」
鵠僖が顎を撫でる。
「何の冗談だ?」
「てめぇ! 俺達だって真面目に考えてるんだよ。腹案があるなら教えてもらおうじゃないか」
腹が立ったのであろうナシュマが立ち上がった。
「見返りは?」
「おい、あんた……」
「私だけが話をし、お前達だけが得をするのは割が合わんとは思わぬか?」
「条件だけでも伺おう」
「そうだな……」
鵠僖が一通り見渡し、クラウドを指差した。
「クラウド、守人であるお前にしよう。条件は私の実験に協力することだ」
「そんなのダメ! クラウドだけはダメ! ナシュマでいいじゃん」
「おいぃぃ、なんでそうなるっ」
「その男のデータは以前取ったからもう必要ない。それよりも守人の方に興味がある。命は取らぬよ」
「――いいだろう」
「クラウドっ!?」
心配そうにカズキが袖を掴んでくる。その手をクラウドは自らの手で包み込んだ。
「ただし、我々が欲しい情報ではなかったらその話は無しにさせてもらう」
「ふむ、面白い男よな。構わぬよ」
「クラウドに痛いことしたら聖獣喚ぶからね!」
「召喚士の気の強さは相変わらずだな。さて、話を始めようか」
鵠僖が頷き、魔獣の頭を撫でた。




