第4話
記憶の扉の中からクラウドの腕に戻ったカズキは、見てきたことを皆に伝えた。卯龍の最期は話さずに。クラウドに悲しい思いをさせたくないからと思うと同時に、命が危険に晒されるという結果に自ら抗ってみたいのだ。
「そうか……やはり聖獣の力を借りての分離だったか。確かに完全に分離をしてしまえば扉はいらなくなるだろう。召喚士ならではの業だが、簡単に見えて中々難しいのだろうね。そういえば、ナシュマも向こうで書物を読んだんだのだったよな」
「ああ。魔族側から見た人間についてだったが、書いてあることはカズキの言ったことと殆ど差はねえな」
「カズキ、具体的にはどうすればいいんだい?」
「んー、記憶だけじゃ良く分からなかったんだ。だから、各聖獣の地に行って、聖獣の力にもう一度触れてみようかなって。力の中心に触れることができれば、番人の記憶みたいに何かしらの断片見えるかも」
「……ねぇカズキ君、番人の記憶と違って聖獣は桁外れの情報量だと思う。番人の記憶見るのも大変なんだよな」
叉胤が心配そうに眉を寄せ、カズキの手を握って膝を着く。
「人間界ができて一万年以上。魔界と合わせれば途方もない。カズキ君にいってらっしゃいは言えない、かな」
「う」
叉胤にそう言われるとちょっと自信がなくなった。クラウドの顔を窺えば、目を閉じ片手を首に当てて考え込んでいる。
「――もう少し、別の方法がないか考えてみないか? カズキの心に負担がかかるのは避けたいんだ。いくら聖獣といえど俺は……」
「クラウド……」
そう言ったクラウドが唇を引き結んだ。二年前、惟僞による心の闇への干渉は自分だけではなく、クラウドの心をも傷つけたのだとカズキは思う。クラウドは思いを溜め込む癖がある。彼の方が壊れてしまうのではないかと心配だ。
だから、笑った。
「クラウド、大丈夫だよ」
「カズキ……」
「聖獣のところに行くのは、最終手段にとっておくね」
「……ありがとう」
「ううん。じゃあ他の案ナシュマ考えてっ」
眉間を押さえていたナシュマが驚いて顔を上げる。
「はぁっ? 俺っ? はぁ、まぁ考えがないわけじゃねえけど、現実的じゃないからなー」
「なぁに、ナシュ?」
「箏」
「箏? って、あの四天王の箏?」
「ああ。なぁ叉胤、あいつどんだけ生きてるんだ?」
「ゴメン、オレには……」
「いや、いいんだ。俺が向こうに行ってた時、人間界と魔界が分かれた時のことを、実際に見たように話してたのが気になってな。だから箏に聞けば何か分かるかもしれないと思ってよ。だけどよー、前に聞いた時には躱されちまった上、魔界だろ」
「ちょっと待てよ兄貴。そもそも! 人間が向こうにいたの一万年前だぜ。その頃から生きてるって常識的に考えても有り得ないだろ」
「だから色々総合しても現実的じゃないって言ったろ」
「み!」
「ふふっ、そうだったね」
ソギが頭の上にいる白ナシュマを手に乗せた。
「この子が箏までの道を創ってくれるって。クラウドさん、これならカズキ君の負担少ないけどどう?」
「ああ、とりあえず話だけでも聞いてみようか。侵略のない今なら向こうに行っても危険は少ないだろう」
「ねぇクラウドとの時間ちょうだい? ご褒美欲しいな」
カズキはクラウドの袖を掴んだ。次の道筋が決まり、気が緩んだのか心が熱くなるのを抑えられなくなる。それを感じたのかクラウドが微笑み髪を撫でてくれた。
「仕方のない子だね。空中散歩でも行こうか」
「カズキ君、出発できるようなら聖獣遣してね」
「うん」
クラウドと共に空へ出る。そして空から召喚士の都を見た。一族のことに興味はなかったが、都に手をつけたのはクラウドの一言がきっかけだった。彼らの思念が休まる時が来るのだろうかと、辛そうにクラウドが言ったから。その気持ちを少しでも和らげてあげたくて。木々で都を包むと、不思議と今まで雑音のように聞こえていた一族の声が聞こえなくなった。
これで良かったのだろう。クラウドも喜んでくれたから。
「カズキ」
後ろから抱きしめてくれるクラウドが耳元で名を囁く。甘くて、艶のある低音が大好きだ。
クラウドが欲しい。
「ねぇ、クラウド。したいな?」
「ん、ここでかっ?」
さすがのクラウドも驚いている。カズキは笑い、彼の耳に歯を立てた。




