第25話
噴水に飛び込んだ白ナシュマが水浴びを始め、バシャバシャはしゃぐたびに水しぶきが輝く。噴水に座っているカズキは見事にしっとりと濡れてしまった。
「みぃ♪」
「ふふ。お水、飲めるくらい綺麗だってさ。さすが聖獣の神殿だね」
噴水の水を浸した布で叉胤の体を拭きながらソギが答える。
「で、ソギの方は何があったの?」
「僕が神殿に着いた時には、叉胤が枇皇って魔族に襲われていた。枇皇は、その……叉胤の元恋人みたいで。二人の間に諍いがあったのは確実だろうね。ナシュマさんいれば傷を癒してあげられたんだろうけど……」
「逃げたし、あいつ。あれ? 枇皇はどこから来たんだろう? あの他に道があるのかな」
「――もしくは、僕達が通った道で来た……?」
「じゃあヨハンは……」
「ん。きっと、大丈夫」
誰にともなく、自分に言い聞かせるようにソギが言葉を紡ぐ。カズキはかける言葉が見つからずに口を閉ざした。
「そういえば白夜君は?」
「ああ、うん。戦いには向かないから先に行かせた。今クラウド捜してるはずだよ。ねぇ、ボクも聖獣飛ばして捜すね。その間白ナシュマうるさいから黙らしておいて」
「みひぃ!」
うるさいと言われた仕返しなのか、白ナシュマが思いきり水を撒き散らしながら噴水から飛び出し、今度は豪快に濡れてしまった。イライラの絶頂がやってきた。
「この……馬鹿ナシュマー!」
「みふっ」
「まぁまぁ二人とも」
カズキは体についた水を払いのけ、闇色の小さな聖獣を召喚して神殿へ飛ばす。闇の力が濃い聖獣ならば、暗闇があろうとでも目が利くはずだ。
目を閉じて聖獣と視界を繋げた。薄暗い神殿内は聖獣を模した石像が並び、石像はどれも光を纏う。太陽に煌めく緑は青みがかり、クラウドの瞳の色に似ていると思った。
ふと優しい風が吹き風に導かれるまま進む。
そして――見た。見てしまった。それを止めようと無意識に体が動いた。脚が動かないことを忘れ、上半身だけが先行する。カズキはバランスを崩して噴水から転げ落ちた。
「カズキ君っ、どうしたの!?」
「嫌だ! クラウド!!」
カズキは見た光景を忘れようと頭を振る。
「クラウドが、白夜に!」
キスをしていたなんて――。
嫌だ。そんなの嫌だ。混乱する自分の中の何かが割れる音がした。自分の意志に反して溢れ出る力が止まらない。神殿を覆う風の強さが増した。
「カズキ君っ!」
ソギの声が遠くに聞こえる。暴走しかけた力は増し、嫌だと思っても止まってはくれない。
「クラウド、助け……」
木が薙ぎ、緑葉が舞い散る。ソギが叉胤と白ナシュマを庇いながら身を低くした。
「白夜、頼む」
「カズキ、落ち着く」
どこからか現れた白夜が体を抱きしめてくる。徐々に精神が落ち着きを取り戻し、そして待ち望んだ姿を見つけた。金色の髪と大好きな碧い瞳。クラウドの姿がそこにあった。
「もう大丈夫。カズキ落ち着いた」
身を離した白夜の皮膚に亀裂が入り、至る個所から赤い血がぽたぽたと滴り落ちる。ソギが急いで血止めの処置をした。
「良かった、落ち着いたか」
そう言ったクラウドが抱き上げてくれる。カズキは首に抱き着き、もう離れたくないと強く力を込める。
「――会いたかったよぅ。ね、キスして? クラウドに会ったら、いっぱいキスしようって決めてたんだ」
その言葉にソギが気を利かせ白夜を連れて場を離れる。カズキは横目で見届けてからクラウドに唇を重ねた。
やっと会えた。けれど、白夜とキスをしていたことは問い質さなければなるまい。仕返しの代わりにクラウドの唇へ歯を立てた。
「何で白夜にキスしたの?」
「やはり聖獣で見ていたか。心配になって戻ったが……。すまない、カズキに会えたかと思って間違えてしまったんだ」
「えー。何それっ。クラウドの馬鹿! ボクと白夜を間違えるなんて!」
「すまない。カズキには心配かけたね」
「もう。じゃあ、ゴメンナサイの代わりに、いっぱい抱きしめてくれたら許してあげる」
「仰せのままに」
顎に落ちたクラウドの唇が喉を伝う。そして服の中に滑り込んだ指は胸に絡んだ。
「ぁっ……! ……く、ぅんっ」
「大きな声を出すとソギと白夜に聞こえてしまうよ?」
クラウドが悪戯っぽく笑う。温かなクラウドの体。久しぶりに身を絡めれば体がふるふると反応した。彼との絶頂は、体の力が抜けてしまうほどだった。
互いに身を絡め、落ち着きを取り戻してカズキはクラウドの肩に口づける。
「可愛い声だった。もっと聞きたいところだが、そうもいかないね」
「クラウド、凄かった……」
「ふふっ、そうかい?」
噴水の水で体を拭き、服を着させてくれたその時だった。クラウドが自分を抱えてその場を離れる。
「え……」
快楽に蕩けた視界にそれが入る。金色に輝く髪。碧い瞳。そこには、もう一人のクラウドが剣を手に立っていた――。




