第24話
その頃、カズキと白夜はクラウドがいるであろう方向へ向けて出発していた。
カズキは、どこまでも続く砂の風景に風の民がいた砂漠を思い出す。あの時はクラウドの背に揺られながら何日もさ迷った。それでも辛くなかった。でも、今は辛い。しかもなぜか白夜の背中に揺られているのだ。聖獣で行こうとしたのだが頑なに止められてしまい、根負けした結果がこれだった。クラウドのような大きな背中でも、力強い腕でもない。白夜が何度も転び、そのたびに地面へ落とされた。柔らかい砂地だからいいもの、石の上だったら相当痛い目に遭っていそうだ。
「ねぇ、聖獣で行こうよ」
「ダメ。カズキはボクが運ぶ」
「意地っ張り」
「カズキも。ナシュマにカズキ任された。それに痛いこととか疲れることとか知りたい」
「はぁ?」
「鵠僖様言ってた。色んなこと知りなさいって」
「……そんなこと、知らない方がいいよ」
昔を思い出して遠くを見る。怖くて、腹の底に靄がかかる。カズキはクラウドから貰った指輪を震える唇に当てた。それだけで少し落ち着くから不思議である。
「クラウド……」
会いたい。会ったら抱きしめてもらって、いっぱいいっぱいキスをしよう。
「好き?」
「『大』好きだよ。無駄口叩いてないで早く進んで。クラウド助けなきゃならないんだから」
「うん」
だが、少し進んでは転び、一向に進まない。白夜の背から見る遠くの空が不規則に光っている。おそらく先に行った叉胤やソギが戦っているのだろう。彼らが負ければクラウドを助けられる確率が格段に減る。それだけは避けたい。カズキの中で焦燥感だけが先に立った。
「……あぁ、もう! クラウド助けたらいくらでも背負えばいいよ! 今は早く進む方が大事!」
「大事?」
「優先しなきゃいけないこと! 分かったっ?」
「……なんとなく」
白夜がコクリと頷いた。彼の答えが激しく不安だが、カズキは地面に下ろしてもらうと、杖の底で砂漠を叩く。巨大な魔法陣が地に広がり咆哮と共に空から白銀に輝く聖獣が現れた。
聖獣の背に乗り、白夜を聖獣の口で持ち上げたまま空高く飛んだ。
「クラウド、今行くからね!」
「風気持ちいいね、カズキ!」
少しくらい怖がるかと思ったのに、心の底から楽しんでいそうな白夜に、カズキは心の中で舌打ちをした。
しばらく進むと風に覆われた神殿が見えてくる。近づけば少々煽られたが、何とか均衡を保っていられる。恐らくこれは聖獣の結界。近づけるのは召喚士の血を引く者のみだ。白夜を避難させるにはうってつけか。そして、クラウドもここにいる。絶対に。
「!!」
神殿の右手で爆音が轟いた。魔法特有の光が散らばる。カズキは風の結界を抜け、白夜を柔らかそうな草地の上へ放り投げた。
「白夜、あんた歩けるんだからクラウド捜して。戦いは足手纏いなんだから、それくらいしてよね」
本当は自分が行きたくてたまらないけれど。
「まかされた」
「そ、それと……危なくなったら逃げてよ! 別に心配とかじゃないからね!」
カズキは白夜の反応を見るより早く聖獣で空高く飛び上がり、そして爆音が聞こえた神殿の右手側に回り込む。そこにはたった一人で、魔族であろう男と対峙しているソギの姿があった。
ソギの頭上に移動し、聖獣の翼を大きくはためかせて風を巻き起こす。
「……召喚士か。貴様の息の根は俺が止める。覚えておけ」
歩が悪いと見たか、男の姿は煙のように消え失せた。同時にその場でソギが座り込む。切り傷や火傷の痕が痛々しい。白いうなじには汗が伝っていた。
「カズキ君……はぁ……ちょっと助かったよ。これ以上長引いたら、まずかった……」
「あいつ何? 叉胤は?」
「そうだ、叉胤が酷い怪我をしてるんだ! ナシュマさんは一緒?」
「ナシュマなら逃げ出したよ」
「えぇっ!? 逃げ出したっ?」
「うん、逃げた」
カズキは憮然と答える。尻尾を巻いて逃げだしたのだ。思い出すだけで腹が立つ。
一度互いに情報交換をしようということになり、街に寄って叉胤と白ナシュマの許へ向かった。痛々しいその姿にカズキは一瞬目を背ける。
「叉胤……」
「みぃ」
「そっか、容態は変わらずか。ありがとう、白ナシュマ。カズキ君、僕達を結界の中に入れてくれる? 多分、そこが一番安全だ」
「そうだね。白夜もいるんだ」
カズキは皆を聖獣に乗せて先に入る。そしてソギと叉胤を結界の中へと呼び込んだ。
改めて降り立った神殿の中は緑が生い茂り、噴水から澄んだ水が涸れることなく溢れる。パーゴラに巻きつく植物は、甘い香りを放つ紫色の花が垂れ下がっていた。
ソギがパーゴラの下に設えてあったベンチに叉胤を寝かせる。カズキは聖獣の召喚を解き、噴水に座りながらそれを眺めた。




