第23話
ソギは、近づいた枇皇を気にもとめず叉胤の許へ駆け寄った。そしてできる限りの手当てをする。
薬草を当てた背中の傷口が生々しく疼いていた。色は違えど血液独特のにおいは変わらない。叉胤の意識はとうになく、ナシュマが合流するまで持ってくれればいいのだが。
「酷いことを……」
「裏切り者の相当な末路だ」
あまりの扱いの酷さに怒りが湧く。
「なんで……人間を好きになったからって、裏切り者なんて言われなきゃいけないの? そんなのおかしいよ」
「おかしいのは貴様の頭だ。魔族と召喚士との戦いにおいて、敵である人間を助けた行為が裏切りではないと?」
「事情があった――」
「理由を追及する必要はない。下等な人間を助けたなど、それだけで大罪だ」
「……一つ、聞きたいんだけど」
ソギは怒りを静めようと、一度軽く唇を引き結んだ。
「なぜ魔族は人間を下等だと思ってるの?」
「知能がない魔獣すら持ちうる核を人間は持たないからだ。我ら魔族の糧にしかならぬモノを同等には思えんよ。お前は家畜を愛するのか?」
「そうだね。僕は大好きだよ、皆のこと」
それは、本心から。鳥や獣とは、互いに食らわなければならない業を理解し合っている。同じ生き物として仲良くなれない理由なんてないのに。
懐にいた白ナシュマが顔を出して小さく鳴いた。枇皇が眉を寄せる。
「魔族だから、人間だから、そんなもので括るからおかしいことになっちゃうんだ。僕は、動物も、ミミットの白ナシュマも、魔族の叉胤も、人間のヨハンも、皆大好きだよ」
「貴様は……」
「!」
一瞬にして目の前に来た枇皇に首を絞め上げられる。
「叉胤と同じ事を……貴様は危険な存在だな」
「くっ……」
「みー!!」
白ナシュマがソギの懐から飛び出し、絞め上げる枇皇の手首に囓りついた。枇皇が怯んだ隙にソギは身を離して体勢を立て直す。そして背にしている矢を引き抜き、矢羽根に唇を当てた。
矢が白く輝いた。敵意ある魔族、しかも叉胤と同等クラスであろう者と戦うには、今は不利な条件が多すぎる。こういう場合は――。
「僕は狩りをして暮らしてる。狩る者と狩られる者、どちらも本気なんだ。特に狩られる者は必死に逃げる。だから、僕も逃げることにするよ。あなたに狩られないようにね」
そう言い、枇皇の足元へ矢を放った。矢が当たった地面が小さな爆発を起こし、巻き上がった砂礫が枇皇を囲う。これでしばらく足止めができるはずだ。
ソギは叉胤を背中に乗せて身を隠せそうな石造りの建物へ入った。建物は遥か昔に誰か住んでいたのだろう、食器やテーブルといった生活用品が置かれている。そしてかなりの年数が経っているにも関わらず埃を被っていないのは、聖獣と近い関係にある場所故か。
ソギは叉胤を俯せにベッドへ寝かせた。白ナシュマも心配なのか叉胤の顔を舐めている。
「みー……」
「うん、叉胤がこんなにやられるなんて、知り合いみたいだけど何だろうあの人」
ベッドの脇にある椅子に腰をかけたソギは頭を抱える。枇皇相手では、すぐにこの場所を知られてしまうだろう。まずは自分が枇皇を連れてこの場を離れるのが最善か。後を追っているであろうナシュマやカズキと合流できれば、事態が好転する可能性もある。
ソギは白ナシュマの頭を指先で撫で、懐にしまってあった小さな石を枕元に置いた。
「これ、主様からいただいた石。二人を護ってくれますようにって、お守り代わりに置いておくね。だからナシュマは叉胤の傍にいてあげて」
「みぃ」
「大丈夫、とは言い切れないけどやるだけやってみるよ。皆のこと大好きだよ。だから、皆を傷つける相手には……容赦しない」
弓を手に立ち上がり、外へ出る。光に照らされ、弓の銀がきらりと光る。建物の外は擬似太陽の光に溢れ、そして――枇皇という闇がそこにあった。




