第20話
一方、クラウドたちは歩みを進めていた。
「変」
何もない砂漠を進む途中、そう言い出したのはカズキだった。辺りを見渡してクラウドに口づける。
「んー」
絡めた舌を空気に触れさせる。いつもならば風によって湿った舌先が乾くのだが、ここではそれが起こらない。砂漠にいるのに暑さを感じないのもそうだ。
「カズキからのキスは嬉しいが、どうした?」
「あのね、感じないの」
違う意味合いで取ったのだろうクラウドの表情が一瞬固まる。カズキは慌てて弁解した。
「ち、違うよっ。クラウドとのキスは痺れちゃうくらい大好き。あのね、感
じないのは聖獣の力」
「ああ……うん、そうか。良かった」
「はははっ、クラウドがそんな衝撃受けた顔したの初めて見たわ」
ナシュマが楽しそうに笑いながらクラウドの肩を叩く。
「んで、聖獣の力を感じないってどういうことだ?」
「クラウドいじめるな。聖獣の力というか、当たり前にある自然が感じられないんだ、ここ。変な例えかもしれないけど、凄く良くできた絵の中にいるみたいな。白夜、ここに祭壇あるの?」
「ある。――と思う」
「珍しく自信なさ気だな」
「鵠僖様から教えてもらったのは草原だけ。先は知らない。ナシュマがそうならそう。案内する、お願い」
「俺がっ? いやいや、カズキの分野だろ」
「役立たず?」
「なぬっ」
「まぁまぁ。ナシュマは感性が鋭いってことだよ。ナシュの活躍、オレ嬉しいな」
にこりと笑う叉胤にナシュマが眉尻を下げ、すぐに手懸かりを探し始める。上手く乗せるものだとカズキは感心した。
「俺に任せて皆少し休んでおけよ」
「頼むよナシュマ。ありがとう」
クラウドが地面に腰を下ろし、向かい合わせになるよう膝に乗せてもらうと、カズキは胸元に頬を寄せる。とくり、とくり、と鼓動が聞こえる。
「ねぇクラウド、ボク達ちゃんと前に進んでるかな。深紅の森では、これといったこと分からなかったし」
「カズキ、結果を急いてはいけないよ。情報という点と点を結ぶことに焦ると、こんがらがって解くのが大変になるからね」
「よく分かんない……」
「無駄な情報などないということさ。前には進んでいるよ。遠回りでもね」
「それならいい」
カズキは目を閉じてクラウドの体温を感じ取る。空気と同じくらい普通にある存在だ。
「クラウド、キスして?」
「甘え上手――」
そこで言葉を区切ったクラウドがカズキの体を支えつつ剣を手に取った。気配に気づいている者はない。殺気に聡い叉胤すら気づいていない。クラウドの鼓動が早まっていった。
「クラウド?」
「カズキ、静かに」
唇に当てられた指先が緊張をはらんでいる。カズキも杖を手にした。気配を読んでいたナシュマもすぐに気づいた。緊迫という言葉が忍び寄ってくる。
何の前触れもなく、身が飛ばされそうなほどの突風が巻き起こった。カズキはクラウドの首に両腕を回してしがみつく。聖獣を召喚する隙はなく、クラウドも体勢を崩さないようにするのが精一杯な様子だった。
「ぅわ!」
ソギが耐えきれず、風に飛ばされてしまった。
「もう、腹立つ!」
カズキは叫ぶ。次の瞬間、ぴたりと風が止んだ。
「え、な、何? クラウド大丈夫?」
「……いや、まだだ。ナシュマ、カズキを頼む!」
「おぅ!」
カズキの身を受け取ったナシュマが、クラウドから距離を取る。カズキが再びクラウドに目を遣った時、彼の身は巨大な旋風に包まれていた。
「クラウド!!」
旋風の中のクラウドが歪んで見える。僅かにしか捉えられない姿に向かって、カズキは声が枯れるほど叫んだ。クラウドと身を分かつなど考えられない。それなのに勢い良く舞い上がった風の渦は鳥のような形になり、クラウドを飲み込んだまま空高く飛んで行ってしまった。
「待って! クラウド!! 嫌だ!!」
背中がぞわりとした。無意識に杖を勢い良く砂漠へ突き刺す。杖を中心に、身の丈五人分程もあろう白く巨大な魔法陣が浮かび上がった。
天から咆哮が聞こえて聖獣が召喚された。アレが何者なのかは分からない。けれど、クラウドを連れて行くならば聖獣の力であろうが、敵だ。進むことを邪魔する者も。
召喚をした聖獣に背中へ乗せてもらい、カズキも空へ飛ぶ。
「カズキ、先走んな! 落ち着け!」
「うるさい!」
カズキは、下から叫ぶナシュマに向けて、聖獣の口から光球を吐き出した。




