第2話
そしてクラウドたちは謁見の手続きを済ませ、謁見室へ向かった。
「く、ふぅ……あっ、や、止めろよ! こんな所で舌入れるちゅーするな!」
「斎が可愛い顔するからです」
「馬鹿馬鹿ピエール! やめないなら自慢の髭をこうだぞっ」
「引っ張るのはお止めなさいな。困った子ですねぇ」
「…………」
ピエールの膝の上で斎がバタバタと暴れている。しかしながら、互いにそんなやり取りを楽しんでいるようだった。謁見室へ踏み入れたタイミングが悪く、クラウド達は彼らを思わず注視してしまった。
「ピエール殿……」
セディアが頭を抱える。
「ん? ぅわあああッ!」
「おや、早かったですね」
斎が慌てながらピエールの横の席に座ったが、ピエールは全く動じずに髭を整えながら微笑んだ。
「また皆さんで会いに来てくれて嬉しいですよ」
クラウドは膝を着く。
「ピエール様方もお元気そうで何よりです」
「はい。ちょうど良かった。私もお話があったのです」
「何か夢見が?」
「ええ」
ピエールが目を閉じ、静かに口を開いた。
「――見えたのは、何か大きなものが砕け散る音、渦巻く幾多の風。それはまるで破滅そのものでした。中心には小さな人影が……」
「カズキ、君が見えた」
「え?」
斎の言葉にびくりとカズキの体が震えた。クラウドは安心させるように背中を撫でる。
「確かにこれだけを聞けば、恐ろしいことが待っているように聞こえます。しかし、不思議と心は落ち着いているのですよ。私は良い意味に取っています」
「良い意味、ですか」
「はい。あなた方の友人を救える前兆なのではないかと」
「けど楽観視はできないから次の夢見に何か表れるまでは、クラウドは必ずカズキの傍にいてあげてくれ。皆も頼む」
「任せてくださいよ」
「うん」
満足そうに頷き襟を正した斎が、咳ばらいをしてクラウドたちを真っすぐに見つめる。
「ピエールの夢見、元番人だったオレも少しだけ垣間見ることができた。あの場所は、おそらく扉の中だと思う。扉の消滅は、転じてあの子を救い出せる可能性となると、ピエールは考えたんだ。オレもそうなることを願ってる。だからクラウド達も本腰を入れて、彼を救う道を進んでみてはどうだろう」
「斎様……」
クラウドたちは顔を見合わせる。この唱道に誰も否定はなかった。
「ありがとうございます」
「クラウドの勘って当たるんだねー」
「そうかな。それなら、カズキは大丈夫だよ。俺達が護るから。俺の勘がそう言っている」
「えへへ、ありがと、クラウドっ」
カズキの唇が顎に触れる。クラウドは頬を撫でてそっとカズキに応えた。
「クラウド、世界の具合はどうでしたか?」
「湖の枯渇や木々の突然変異が目立ちますが、魔物の数は二年前に比べて圧倒的に減っています。これならば駐在する騎士や自警団で手が足りましょう」
「何よりです。魔族の干渉がなくなった証拠ですね。いやぁ、もう一度美しい霙颯に会いた――ぅ……いえいえ、何でもありません」
立ち上がった斎に容赦なく足を踏まれ、ピエールが言葉を濁す。斎の嫉妬の表れだったのだろう。
「ねぇカズキ、扉を創ったのは初代番人の卯龍だ。召喚士の都には、オレ達番人の記憶が収められている部屋があるんだろう? そこにある卯龍の記憶を覗いてみれば、扉に関することが何か片鱗でも分かるかもしれない。行ってみたらどう?」
「えー、あれまたやるの? 疲れるんだけど」
「カズキ君、頼むよ。あいつを助ける手立てを見つけられるなら、どうかやってはくれないだろうか」
「……ぅ」
セディアが頭を下げたのを見て、小さく頑張ると呟いた。
「いい子だね、カズキ。後でお願い聞くよ」
「やったぁ!」
「んふふー、カズキ君の笑顔は可愛いですねぇ。クラウド、彼を大切になさいね」
「はい。彼には私の剣を捧げましたので」
「おやおや。それは、嬉しいことですねぇ」
「カッコイイ、クラウド……」
カズキが惚れ直したとでもいうように甘い息を吐く。
「では、我々はこれで失礼いたします」
「はい。何かありましたら鳥を飛ばしますね。あなた達の道行に光がありますよう」
「ありがとうございます」
六人はその場を後にした。そして誰もが扉のある西塔を見上げる。必ずライシュルトを助けようと心に誓って。
青空を鳥が泳いでいた。




