第1話
太陽が暖かな空気を作り、月が人々に安らぎを与える。鳥が歌い、桃色の花びらが舞う。木々の緑、花の赤、水の青。自然は着実に元の姿へ戻ってきていた。
――あれから二年。西風に乗って小さな聖獣が空を翔ける。眼下には深い森。透明な湖の辺に小屋が建っている。窓から外を眺める青年の肩に聖獣が止まった。
銀色の髪が風に靡く。
「そっか。ありがとう、伝えてくれて」
役目を終え、小さく鳴いた聖獣が煙のように消えた。
「ソギ、どうした?」
「ヨハン」
一度口づけてソギは笑う。
「クラウドさんとカズキ君がセントラルクルスに帰ってくるそうだよ」
「そうか。それじゃ、俺達も向かおうぜ」
ソギは頷く。二年前の約束だそうだ。意識が戻っていなかったので詳しいやり取りは分からないが、自然を癒す旅が終わり教会に戻った時、また皆で会おうと約束をしたとのことだった。ナシュマと叉胤にも鳥を飛ばしてそれを知らせ、ヨハンと共にセントラルクルスへ向かった。
セントラルクルスの教会へ繋がる大通りに沿ってテントが迫り出し、土産物屋が軒を連ねて商品を売る。客を呼び込む声があちらこちらから聞こえてきた。
一軒の店の前に茶色の紙袋を両手に抱えたカズキの姿があった。クラウドの姿はなく、ヨハンが声をかけると恥ずかしそうに走り去ってしまった。
「なんだ? アイツ。つーか歩けるようになったのか?」
「そんな話は聞いてないけど……あ、もしかして今のカズキ君の複製って子?」
「ああ、兄貴が言ってたやつか。元気に暮らしてるみたいだな。カズキの顔していじらしいと変な感じだなー」
「うるさいよ、ヨハン! でかい図体で道の真ん中に突っ立てないでよ。邪魔」
「うおっ!?」
背後から威勢のいい声が聞こえる。
二年ぶりの再会だ。ソギは振り向き、精悍さを上げたクラウドと相変わらずのカズキに微笑む。
「ふふっ、久しぶり二人とも」
「ソギ! 良かった、目覚めたんだな。中々会いに行けず、すまない」
「ううん。目覚めたの最近だし、クラウドさん達にもやる事あるんだから」
「ソギ、おかえり」
少しだけ素直になったのだろうか、カズキがぽつりと言った。
「ただいま、カズキ君」
「うん」
「クラウド、自然の方は粗方回復してきたのか?」
「まだ半ばだよ。しかし何でかな、帰らなくてはいけないという気がしてね、カズキに聖獣を飛ばしてもらったんだ」
「お前がそう思うなら何かあるのかもな。おっつけ兄貴達もくるはずだぜ」
「ナシュマと叉胤に会うのも久しぶりだな。楽しみだ」
「皆揃ったら、ピエールさんのところへ挨拶に行こうよ。斎さんの様子も知りたいし」
そして、こっそりと転送術で来たのかすぐにナシュマと叉胤も合流する。ナシュマは変わらぬが、叉胤は銀灰色の髪をばっさりと切り、男の色気たっぷりな雰囲気へ変わっていた。
「久しぶり。ザーニアに帰って来たんだって?」
「ああ。叉胤なんて傭兵の仕事は今や俺以上の稼ぎだぜ」
「ナシュが傍にいてくれるからだよ」
「み!!」
叉胤の懐から飛び出したミミットがソギの肩に乗ってくる。
「みひー」
「ん? あはは、ゴメンね」
ソギは頭を撫でた。
「僕の存在も忘れないでって」
「み!」
満足そうに鳴いた白いミミットが、今度は叉胤の手の上に落ち着く。
「ナシュマの存在も、ちゃんと皆覚えてるよ」
翼をパタパタと弄りながら言った叉胤の言葉に、ナシュマ以外の全員が首を傾げた。ナシュマがモノクルをかけ直しながら口を開く。
「俺もナシュマ。アイツもナシュマ」
「はぁ? 意味分かんない」
「あー、俺が仕事でいない時、叉胤が寂しさ紛らわすのにナシュマって呼んでたら、それで覚えちゃったみたいでなー」
「みぃ!」
「ふふっ、僕はナシュマだって言ってる」
「ややこしいなぁ。絶対呼ぶ時間違う」
「まぁまぁカズキ。コイツ頭いいから何となく分かってくれるぜ」
「ふーん」
興味が失せたのか、カズキがクラウドに身を寄せた。
ソギはそろそろ出発をするだろうと、鳥を一羽呼び書簡を付けてピエールの許へ飛ばした。そしてヨハンの手を握る。
「どした?」
何となく。カズキとクラウドを見ていて羨ましくなってしまったから。けれど、それを言うのは恥ずかしくてソギは首を横に振る。
「行こ?」
太陽がソギ達六人と、そして今ここにはいない七人目の仲間を照らす。彼らの道を示すように――。




