第17話
やがて月が一つになり夜の到来を知らせる頃、再び祭壇に炎が燃えクラウドたちが戻ってきた。
話を聞いたナシュマは肩を竦める。
「霊珠ねぇ。それが何か分からない限り探しようがねぇな。でもま、一歩進んだか」
「ああ。それについてはサキチカの方で調べてくれるそうだ。そういえば守護者というものにナシュマも心当たりあるか?」
「ああ。教会の文献で何度か出てきたな。聖獣の守り人って意味合いだったか」
「凄いな、あの量の内容覚えているなんて……」
「なーに、興味ある内容だったから覚えてただけだ。さすがに霊珠は分からねぇな」
「兄貴、クラウドみたいな守人とは違うのか?」
「ああ。その言葉通りの意味だな。人間界に移って平穏を得たってことでお役御免になったようだ」
「聖獣との接点があるならば、分離にも何かしら関わっているかもなー」
「さて夜が明けたら出発しよう。白夜、次の祭壇はどこだい?」
白夜が右手を真っすぐ前に伸ばして指を差した。
「次あっち」
「おいおい、あやふやだな」
「ナシュ、そんなこと言わないの。白夜君、場所の名前分かる?」
「なまえはない。くさむら」
「見事なまでのふわふわな説明だよね。全く意味分かんないよ」
「見る?」
「見ない!」
嫌だと言うように、クラウドの首にぎゅっと抱き着いたカズキが首を横に振る。
「トラウマか、カズキ?」
「うっさい、ナシュマ!」
「そりゃ失礼」
ナシュマは苦笑しながら肩を竦めた。
そして夜明けまでは森で過ごし、三つ目の月が昇ったと同時に出発をする。来た道を戻って地上へ出た時、十人ほどの魔族が縦穴を取り囲んでいた。おそらくサキチカたち防人と同じような役目であり、森での騒ぎを聞きつけ集まったのであろう。
「……人間? 魔族もいるな。ここは王族直轄地。許可なくば四天王様すら立ち入れぬ場所ぞ」
「即排除」
剣を抜いた彼らは、話を聞かず襲いかかってくる。
「話くらい聞けー! クラウド、どうすんだっ?」
ナシュマは攻撃を避けながらも声を上げた。なるべくなら無駄な戦いは避けたいものだ。
「カズキ、頼むよ」
「うん」
カズキが杖で地面を突く。空気が震え、咆哮と共に聖獣が召喚された。皆を乗せられるほどに大きい聖獣は、翼を大きくはためかせて森の防人を怯ませる。その隙に皆は聖獣の背に乗って空へと飛んだ。見上げる彼らが小さくなり、やがて見えなくなった。
「逃げるが勝ちか」
「聖獣召喚の時点でカズキ君やクラウドさんだって知れるか。追撃か静観かどう出るかは分からないけどね」
「そういえば王様にご挨拶行ってなかったね。あ、でも僕達じゃお城に入れないか」
「ま、用があるなら向こうから来るだろ。このまま次に行こうぜ」
「勝手に決めないでよナシュマっ。本当はクラウド以外乗せたくないんだからねっ」
「はいはーい。そんなに怒るとお肌荒れるぞ」
「余計なお世話っ。白夜、どこに向かうのっ?」
「あっち。しゅっぱーつ」
聖獣で白夜が示す方向へ向かった。赤い空には雲一つない。ナシュマは隣にいる叉胤の横顔を見た。見慣れているであろう赤い空に何を思うのか。
「懐かしいか?」
「そうだね。魔界の赤い空を見上げたのは久しぶりだよ。こんなに綺麗だったんだね」
「なぁ、叉胤。今度お前が魔界にいた頃の話聞かせてくれないか? 話す気になったらでいいんだ。クラウドじゃねぇが、お前の傷を知った上で、それを含めて叉胤の傍にいたいんだ」
叉胤が困ったように笑った。いつもそうさせてから気づく。我が儘なのだ、自分は。自分の考えを押しつけて叉胤を困らせてしまう。悲しい顔は見たくないのに。
「悪い、叉胤……」
「謝らないで。この旅が終わったら話す。ナシュにはちゃんと。鵠僖さんが言ってたこと、分かるんだ」
「傷口に触れさせないのが優しさとは限らないってやつか」
「うん。話さなければ痛くはないけど傷口が治ることもない。それは痛いのと一緒だよ」
「それを癒してやれるのが俺なら光栄だ」
「ありがとう、ナシュ。早くライシュルトさん助けてあげようね!」
「おぅ!」
今度は、太陽のように明るく叉胤が笑ってくれた。




