第15話
そして翌日――朝陽が街を包み、柔らかな陽射しが暖かさを運ぶ頃、カズキはクラウドの腕の中で目を覚ました。
いつもと変わらぬ目覚めなのに、何かが違う。上半身を起こして眉を寄せた。眠るクラウドの横には白夜が体を寄せているのだ。
「――白夜、何してるの?」
「カズキ、起きたら……おはよう? 挨拶、ならった。ミツチカに」
「そんなのどうでもいいっ。クラウドから今すぐ離れてよ!」
「……カズキ?」
荒らげた声にクラウドが目を開ける。
「朝からどうした」
「だって白夜が!」
カズキは落ち着かぬ胸の高鳴りを、自らの服を掴んで抑えようとした。体を起こしたクラウドが正面から抱きしめてくれる。それだけで鼓動が少しだけ落ち着いた。
「白夜がどうした?」
「だってクラウドの隣に寝てた! そこはボクだけの場所なのに!!」
「ん、そうか。白夜はどうしてそこに?」
「カズキが嬉しそうだから」
「はぁ?」
「いつもクラウドさんと一緒。ボクも、知りたくなった。どうして嬉しそうなのか。でも、良く分からなかった」
「クラウドはボクのだもん! 白夜には分からなくていいよ!」
「カズキは少し言い過ぎだ。落ち着きなさい。俺はカズキから離れないから」
「クラウド……」
頭を撫でる掌に涙が出そうになった。一瞬でも離れてしまうことが怖くて。
「白夜、君にカズキの記憶は?」
「カズキのきおく?」
不思議そうに白夜が首を捻る。
「いや、何でもないよ白夜。気にしないでくれ。カズキ、白夜は知りたいだけだ。羨ましくなったんだよ、カズキがあまりに幸せそうだから」
「だからってクラウドで試さなくたっていいじゃん……。サキチカ辺りで試してよね。懐いてるんだから」
「そうする。……あ!!」
素直に頷いた白夜が、思い出したように突然大声をあげる。カズキは不覚にも驚いてしまいクラウドに抱き着いた。
「な、なにっ?」
「サキチカにお願いされた。ごはんの仕度できた。仲良しで寝てるだろうから、起こす」
「そうか。呼びに来てくれたんだね、ありがとう。すぐに行くって伝えてくれるかい?」
「わかった」
白夜が部屋を出て行くとクラウドが優しく背中を撫でてくれた。
「カズキ、怖がらなくていい。俺は聖騎士としても守人としても、お前を護れることに誇りを持っている。それは俺の生きがいでもある。何よりカズキが思っている以上に俺はお前にべた惚れだ」
「べた惚れ?」
「ああ。カズキを腕に抱いてないと落ち着かない。だから大丈夫。次は少しだけ怒りを堪えてみような?」
「うん。……えへへ、一緒だね、クラウド。ボクもクラウドいないと寒いんだ」
「カズキと一緒だ」
それが本心なのはクラウドの碧い瞳が語っている。カズキは心が近くにあることを再認識し、嬉しくなって照れ笑いをした。
仕度を済ませて朝食が用意されている部屋に入ると、正面に座るミツチカの首にはあの時の首飾りが下げられていた。青く澄んだ色は今見ても美しい。それを白夜が物珍しそうに、ミツチカの横にちょこんと座って眺めていた。
「おはよう、良く眠れたようだな。白夜が楽しそうに教えてくれたぞ」
膳と呼ばれる前に座れば、焼き魚のいい香りが食欲をそそった。
「うん、仲良しだもん。で、何か分かったの?」
「気が早いな、カズキ。昨日の今日で分かったらいいのだがそうもいかん。だがお前達が再びユーライを訪れる時までには調べておこう」
「ところでさ、サキチカの首飾りなんでミツチカがしてるのさ」
「これか? 仕返しだ。サキチカが遺言の代わりに渡してきたからな。ナシュマのおかげで命拾いしたが、悔しい故返してやらずに、いつか同じことをしてやるのだよ」
静かに怒っているのだろうミツチカがにこやかに答える。二年経っても治まらない怒りは相当なようだ。
「それは置いておくとして……今回は再びお前達の役に立てること嬉しく思うぞ。ユーライを救ってくれた恩は、感謝してもしきれぬ」
「温泉好きだし、ここはクラウドとの大切な思い出がある場所だからね」
「で、昨日はカズキが頑張りすぎてクラウドが逆上せた、と」
「そ、それは言わないでくれサキチカ……」
「あはは!」
ユーライでの一時は楽しい時間だった。これからの旅は辛いことがたくさんあると思う。けれど、楽しい思い出が辛さを軽くしてくれるはずだ。クラウドが傍にいてくれるのは、何よりの幸せだから。




