第14話
叢の中を小動物が駆けたのか緑がカサリと鳴いた。空は朱。薄紫の瞳がゆっくりと開かれる。
「うは~、なんか疲れたぁ」
「カズキ、お疲れ様。頑張ったね」
「しかし先程の声は何だったんだ? 泉が光ったことにも驚いたぞ。どちらも初めての経験だ」
「魂の言葉のようなものかなー、たぶん。水の聖獣の力使って泉に干渉してみたんだ」
「カズキ、何か分かったかい?」
クラウドは親指でカズキの汗を拭った。
「んー、ゴメン。詳しいことは分からなかった。でも、何だろう? 所々聞こえてきたのは、霊珠とか守護者とか。そんなコトバは初めて聞いたよ」
「守護者か……」
クラウドは自らの首に手を当てる。どこかで聞いたことのある言葉。すぐに思い出して納得した。
「以前教会の古い文献でその言葉を何度か見かけた。誰を指すものか分からないが、何か糸口が掴めるかもしれないな」
「クラウド、奇しくもユーライには霊珠と呼ばれるものがある。以前俺がしていた首飾り、あれは代々防人に伝わるものだ。特別な効果があるとは聞いたことがないが、俺の方も首飾りが霊珠と呼ばれる由縁を調べてみよう」
「頼むよ。驚いたな、こんな近くにそれらしきものがあるなんて」
これも聖獣の導きか。偶然という言葉は当てはまらない気がする。
「さて、最大の問題はどうやって向こうに戻るか、だな。機会がくればまた炎の扉が開くと思うのだが……」
「ふむ。祭壇に戻るにしても山頂に着く前に日が暮れる。今日は城に泊まって、明日行ってみてはどうだ。向こうには魔界に詳しい叉胤もいるんだろう?」
「クラウド、そーしよ? ボクくたくたー」
聖獣の力を仲介できるカズキが疲れていては何も始まらない。クラウドは頷きサキチカの先導で城へと案内してもらった。
城に着く頃には夜の帳が下り、松明の暖かな明るさが街を照らす。途中地面から立ち上る煙に興味津々だったのは白夜だ。サキチカにすっかりと懐き、色々と質問をしていた。
「クラウド、親子ってあんな感じかな?」
「あー、カズキ。俺はクラウドとそう大して歳が変わらんぞ」
「うっそだー!!」
「こらこら、カズキ。そんなこと言ってはいけないよ。サキチカは落ち着いているだけだ」
「だってぇー。びっくりしたぁ~」
「落ち着いてる大きな人――おとうさん?」
「それ以上たたみかけるな、二人とも。すまんな、サキチカ」
「いや、まぁ良く言われるしな」
「言われるのか……」
がしがしと頭を描いたサキチカが苦笑いをする。そしてカズキと白夜の頭を撫でた。
「ようこそ、我がユーライへ」
「うん」
ユーライの城は変わらず美しく、雰囲気が柔らかくなったミツチカが出迎えてくれた。やはり白夜の存在には驚いたようで言葉を詰まらせる。
「ふむ、魔界とは不思議な世界だな。叉胤や白夜に会わなかったらお伽話のままだった」
「まかいはあるよ。にんげんの世界も」
「そうだな。クラウド、白夜のことは俺に任せて、お前達は温泉にでも浸かってゆっくりしてきたらどうだ?」
「温泉!」
待ってましたと言わんばかりにカズキが声をあげた。
その後すぐに城の浴場へ向かった。久しぶりの温泉は、水浴びとは違うくつろぎを味わえる。そして、体温よりも湯の温度の方が高いのに、向かい合わせに膝の上にいるカズキの肌が殊更暖かく感じられた。
「ふふっ。クラウド、ちょっと元気になってる。えっちなこと考えてた?」
「それは……」
「ボクもドキドキしてるよ。クラウドとはいっぱいえっちしてるけどさ、ここは初めてクラウドに抱いてもらった場所だもん。ドキドキするんだぁ」
じゃれるようにカズキが耳を囓ってくる。
「か、カズキ」
「ほら、凄く熱い。ねぇクラウド……ボク、したくなってきちゃった……」
首筋に唇が落ちる。クラウドも堪らずカズキの首筋にキスをした。滑らかな白い肌は情欲をそそり、彼から零れる吐息が快楽への道を作った。
「ぁ……ん、クラウド……」
「カズキ、一緒に堕ちようか」
「うん。いっぱい、ちょうだい。クラウドの、熱いの……」
クラウドはカズキの腰を撫でる。理性など消えてしまえ――。




