第13話
「あ、直ってる」
「カズキ、どうしたんだい?」
「あのね、ここの祠、牙煌に焼かれて崩れてたんだ。キレイに戻ってて良かったぁ。サキチカ達の大事な場所だもんね」
「そうだな。時間があるなら後でミツチカにも会ってやってくれ」
初めて聞く名に白夜が首を傾げる。
「ミツチカは俺の弟だ」
「弟……きょうだいと呼ばれる小さい方。じゃあこの人は大きいヒトだね。きょうだい、ボクも、会ってみたい」
「はは、歓迎しよう。それと俺の名はサキチカだ。大きいヒト、と表現されたのは初めて言われたなぁ」
「変な言葉遣いはユイトといい勝負じゃない?」
「ユイトはなにもの」
白夜の立て続いた質問に、カズキが少し悩んだ様子を見せた。
「うーん……ボクの弟で、白夜のお兄ちゃんみたいなものだよ」
「大きい、小さい、まんなか。中くらいのヒト? でも、ボクはカズキより小さくない」
「クラウド、白夜との会話疲れるー」
「カズキ……」
クラウドは感極まってカズキを抱きしめた。旅に出る前はユイトの存在に困惑していたのに、弟だと言ってくれたのだ。
「優しい子だね、カズキは」
「なぁに?」
「サキチカ、ちょっと失礼するよ」
カズキの唇を親指で撫でて口づける。サキチカが慌てて掌で白夜の目を覆っていた。
「クラウド、急にどうしたっ?」
「すまん。嬉しくてな」
緩んだ気持ちを引き締めなければと自らの頬を軽く叩く。
「さて、カズキはどこか思い当たる場所あるかい?」
「う~ん」
両の人差し指をこめかみに当てながら、しばらくカズキが考え込む。そして思い当たったように笑顔で頷いた。
「うん、決めた! 命還泉にするよ! サキチカ、案内お願い。クラウドならボク以上に口が堅いから大丈夫だよ。白夜は分かんないけど」
サキチカに案内され、クラウドは初めて見た泉に溜め息が出る。濃い緑、風の匂い。命還泉は、ソギの瞳のような澄んだ水色を湛えていた。
「清らかな場所だね。ここだけ空気が違う」
「うん。死んじゃった人の命が還る泉なんだって。山には聖獣がいるから、ここは人間がこっちの世界に来た頃から泉もあったはずだよ。だから何か感じ取れるんじゃないかなって。召喚士以外の普通の人の想いとか、分離の時の状況が少しでも分かればいいな」
「頼むよ。いつもカズキには負担をかけるな」
泉を囲む岩の前にカズキを座らせて頭を撫でる。
「クラウドが傍にいてくれるから大丈夫。頑張るとクラウドが褒めてくれるから嬉しいんだ」
「ありがとう。何か手伝えることはあるかい?」
「じゃあ、ぎゅっとしてて」
カズキを膝の上に乗せてやると、顎にキスをしてきた。そして少し照れたように舌を出して笑う。
それを見ていた白夜が、不思議そうな顔をしながらサキチカに何かを話しかけていた。対してサキチカが困ったように笑い、白夜を膝に乗せる。どうやらカズキと同じことをして欲しかったようだ。
カズキがそれを一瞥し、杖を握ると目を閉じた。杖の先端の水晶が僅かに水色の光を帯びる。それと同時に意思があるが如く、命還泉も淡く幽かな光を明滅させた。まるで杖と会話をしているようだ。
「これは、きれい?」
「ああ、そうだな。カズキはあれから随分と成長をしたようだな。誰かさんのおかげか?」
「いや、カズキの頑張りのおかげだよ。俺は傍にいるだけだ」
「惚気やがって」
「サキチカ、のろけってなに?」
「仲良しってことだ」
「クラウドさんとカズキみたいに?」
「まぁ、そうかな」
クラウドは改めてカズキを抱きしめながら、自らの薬指にはめてある銀の指輪に目を遣った。旅の出発日に贈った指輪のお礼に今度は自分から贈りたいと、ある日カズキがこの指輪を持ってきたのだ。未だにどうやって手に入れたのかは答えてくれないが、クラウドにとっても大切なものになった。
「……?」
何かが聞こえた。人のざわめき、笑い声。耳元でこそこそと話をしているような、そんな囁きだ。
カズキに異変はない。鼓動は安定し、静かに瞳を閉じている。しかし白夜だけは頭を振りながら耳を塞いだ。
「声、聞こえる。何だろう?」
「俺には何となくしか聞こえないが……クラウドは?」
「俺もサキチカと同じだよ」
「カズキの頭に入ってきたコトバが聞こえる。とても、うるさい」
「――もう!! うるさいのは皆! ちょっと黙ってて!」
「す、すまん、カズキ」
周りの喧騒に堪えられなくなったのか、カズキが溜め息を吐いて頬を膨らませた。




