第11話
縦穴を下りていく時、クラウドの背にいるカズキが呟いた。
「クラウド、ちょっと怖い」
「大丈夫かい?」
「暗くて狭いところはちょっと苦手なんだ。クラウドいてくれても思い出しちゃうんだ」
首に回される腕が少し震えていた。急いで地上に降り立ち、カズキの体を繋げていた紐を解いて前から抱きしめる。カズキの顔は青ざめ、かなり心の傷を負っているようだ。
「大丈夫、俺がいるよ。話してくれないか? カズキの怖いもの、俺は知りたい」
二年前のことを繰り返さないためにも。
少し緊張しているのか、カズキがクラウドの手をぎゅっと握ってきた。そして小さな声で語る。
「あのね、昔にね、暗くてジメジメしてる地下に閉じ込められたんだ。真っ暗で……感じられるのは鉄の檻の冷たさだけ。たまに蝋燭の火が揺れて、痛いことされた。それがずっと、ずっと長い間……」
思い出して怖くなったのか、カズキの瞳から涙が零れた。握る手も未だに震えている。
「鉄の檻……?」
「あの時は人間として扱われてなかった。ボクが死にそうになってるのを見て、それを楽しむ人だった。ボクは、欲求を満たす道具でしかなかったんだ……!」
空気がピリッと震える。
「何て惨いことを。カズキ、辛かったな、怖かったな」
「クラウド……ねぇ、もっと抱きしめて。ボクにクラウドが傍にいるって感じさせて」
「ああ。カズキはもう一人ぼっちじゃない」
「オレ達もいるよ」
「うん……」
腕に力を込めて背中を摩った。カズキの仕事の話は聞いていたが、それに至るまでのことがあまりにも辛過ぎる。クラウドはカズキをきつく抱きしめ、頭を何度も撫でた。
「クラウドと会えて良かったよ。大好き、クラウド」
「いくらでも好きでいてくれ」
「……治まった」
「どうした、白夜?」
「背中ぞわぞわした。ぼうそうしかけてた」
「カズキ、こっちを見て」
クラウドは頬に手を宛がい、視線を合わせた。一瞬不安そうになったカズキの瞳を引き戻す。
「俺が暴走はさせない。信じてくれ」
「……うん、ありがとう」
「クラウドさんが言うなら大丈夫だよ、カズキ君」
「んだな」
皆が頷いたのを見てようやく笑顔を見せたカズキに、クラウドは安堵した。手の震えも止まっている。
「行けるかい?」
「大丈夫! クラウド、お話聞いてくれてありがとう」
「ふふっ、じゃあ進もうか」
叉胤が掌に光球を作り出した。掲げれば天井は高く、細い石畳のような通路が続く。
「人工的な道だな」
「召喚士がつかってた道。まっすぐが神殿」
「なるほど。白夜、案内を頼むよ」
クラウドたちは白夜の後を追った。途中魔獣が襲いかかってきたが、叉胤が何食わぬ顔でそれを蹴散らす。人間界にいた時は、戦闘能力を一角しか見せていなかったのであろうほど見事なものだった。
やがて地上へ伸びる階段が現れ、眩しい光が彼らを包んだ。
「うわぁ」
カズキが感嘆し空を見ながら腕を天に伸ばす。風に舞って紅い葉、黄色い葉がひらひらと止むことなく踊っていた。心地好い爽やかな風が吹き、カズキの髪を靡かせる。
「神殿、あそこ」
白夜が指を差したそこは、十人ほどが乗れる正方形の台座がひとつあるだけだ。中央には二重の円形が彫られている。神殿とも祠とも言えない場所に誰もが首を捻った。だが、台座を上座にして木々が四角く切り取られている。広さは小さな教会の聖堂ほどで、ここに神殿があったことが伺えた。
クラウドは台座にカズキを座らせて問う。
「何か感じるかい?」
「ぅーん」
こめかみに指先を当てて考え込む。一生懸命な姿に心が和んだ。
「なぁに?」
「いや、カズキは可愛いなと思ってな」
「えへへ、ありがとうクラウド」
カズキの手を取って甲に口づける。
――りん。突如カズキが腰に下げていた鈴が鳴った。風の里が現れた時と同じような地鳴りが起きる。
「こわいの来た」
「へ?」
ずるり、と地面を這い何かが近づいてくる。
「な、なんだぁ?」
「ヨハン、後ろ!」
妙な気配に、ヨハンがソギと白夜を抱えてその場を離れた瞬間、ロープがしなるような音と爆音、そして砂煙が舞った。煙に紛れて黒く艶のある生き物が垣間見える。
「クラウド……あれ、白夜が見せたやつ!」
「こんな時に!」
クラウドの気持ちの高ぶりに反応したのか、腰に差している剣が鳴いた。




