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第22回「ひまりの独白(※あざとい計算と、限界突破のガチ恋)」


 ぎゅっ、と。

 静まり返ったベッドの中で、大好きなななこちゃんの身体を正面から抱きしめる。それだけでもう、ウチのアタマは溶けそうになるんだ。


 カーテンの隙間から差し込む朝の光が、ウチの腕の中で丸くなっている、ななこちゃんの顔を優しく照らしている。


 ちっちゃくて、白くて、ちょっとだけ眉間にシワを寄せて眠っているお顔。それを特等席で見つめているだけで、ウチの胸の奥は、甘い林檎のシロップをドボドボと注ぎ込まれたみたいに、息ができないくらい甘酸っぱくて熱い感情でいっぱいだよ。


(あ〜……本当にしゅき。可愛すぎて、毎日ウチの心臓が爆発しそう……)


 ウチはななこちゃんの柔らかい頬に自分の顔をすり寄せて、完熟林檎のミストの香りをこれでもかってくらいお裾分けしちゃう。


 思い返せば、出会ったあの最初の公園の日。

 ななこちゃん、ウチらの前に立って、ものすごく高いロリ声を出して「ななこだよぉ♪」って言ったよね。あの瞬間、ウチ、心の中で『えっ、このお姉ちゃん、無理してロリのフリしてて超可愛いんだけど!?』って大興奮しちゃったんだ。


 だって、肌の感じも、立ってる時のちょっと疲れた姿勢も、ウチら本物の小学生とは全然違ってたんだもん。


 ウチが動画アプリのダンスを見せた時も、昨晩ベッドの中で涙目で練習したんだろうな〜ってくらいぎこちなく、でも全力でお手て、振っててさ。指先がぷるぷる震えてるのを見た瞬間、ウチのハートは完全に撃ち抜かれちゃった。


 ウチらのために、大の大人が、そんなに一生懸命「子供のフリ」をしてくれるなんて、あり得ない! 健気すぎて可愛すぎて尊すぎるしょ!


 だからウチ、その場ですぐ心愛と凛にメッセージを送ったんだ。『このお姉ちゃん、ガチで可愛いからウチらで完璧に騙されたフリして、世界一甘やかしてあげようね!』って。


 でもね、ななこちゃん。ウチ、ただお姉ちゃんを愛でて楽しんでるだけじゃなかったんだよ。

 

 初めて魔獣と戦った時。ウチらが怖くて動けなかったのに、ななこちゃんはフリフリのミニスカ姿で前に飛び出して、「有給消化」とか叫びながらステッキを力任せに叩きつけて、バケモノをボコボコにしちゃったよね。


 ウチが学校の人間関係で悩んでた時も、両肩をがっしり掴んで、目が全然笑ってない営業スマイルで「リソースの押し付けはコンプライアンス違反よ」って大人の武器を教えてくれた。


 あの時、ウチ、それまで付けてた「可愛いななこちゃん観察日記」は、「完全無欠の『ガチ恋』出さずに溜め込むラブレター日記」に、限界突破しちゃったんだよ。


 だからウチ、その汚くて格好いい処世術を全部ノートに書いて暗記したもん。こっそり撮った、ななこちゃんの写真も貼って。

 お姉ちゃんのおかげで、ウチはSNSの世界でも理不尽な大人たちを全員論破して、トップインフルエンサーにまで成り上がれたんだよ?

 

 でも、本当はずっと寂しかった。ううん、欲求不満だった。


 お泊まり会の夜、ウチらに挟まれてカチコチに固まってるななこちゃんの腰にしがみつきながら、本当は「もう子供のフリなんてしなくていいよ、ウチのものになって」って、めちゃくちゃにキスして襲っちゃいたかったんだ。


 年齢の壁のせいで、お姉ちゃんに「可愛いチビっ子」としてしか見てもらえないのが、本当にもどかしくて悔しくて、二十歳になるまでの数年間は、毎日ウチのクソデカ感情が何度も暴走しそうだったんだから。


 だから、二十歳の成人式の夜は、絶対に逃がさないって決めてたの。


 お姉ちゃんを働かせないために三人で手分けして、心愛はお金、凛は法律、うちは広報を担当することにして。

 そのための知名度も、お姉ちゃんを囲い込むための婚姻届も、全部用意して、あの甘い檻の中に閉じ込めたんだ。


 なのに……それなのにさ。


 この間の夜、ウチらが変身できなくてピンチの時に、お姉ちゃん、ただの人間なのに一本の万年筆だけ握りしめて、魔獣の残党を瞬殺しちゃうんだもん。


「そこよ……!!」って叫んだ時の、あの格好いい大人の瞳。


 ウチ、それを見た瞬間、もう好きすぎて脳みそどころか、全身が完全に溶けちゃった。魔法がなくても、お姉ちゃんはウチの命の恩人で、世界で一番格好よくて、ウチが一生をかけて捕食しなきゃいけない最愛の人。


「……んぅ……。ひまり、ちゃん……? くるしい、もう食べられないよお……」


 腕の中で、ななこちゃんがちいさく身じろぎをして、パチパチと眠たげに寝言を言う。

 ウチがぎゅうぎゅうに抱きしめすぎて、ちょっと苦しかったみたい。


「ななこちゃん、おはよーーーっ!」


 ウチはここぞとばかりに、ななこちゃんの頬や唇に、ちゅ、ちゅ、と何度も音を立てて熱いキスを降らせた。


「ひゃ、ひまりちゃんっ……!? 朝から、光属性が強すぎる……!灰になるぅ!」


「ダメだよ! ウチ、ローテーションだけじゃ全然足りないんだから! これからは毎日、ウチの可愛いお膝の上で、一生ウチに甘やかされて、お姉ちゃん成分をウチに補給し続けてもらうんだからね!」


 恥ずかしさで顔を真っ赤にして、ウチの胸の中にすっぽり埋まって縮こまるななこちゃん。

 

 もう、どこにも逃がさないよ。

 ウチらをこんなに狂わせた責任、一生をかけて、絶対の愛の檻の中で取ってもらうんだからね、ななこちゃん!


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