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第20回「心愛の独白(※愛の証明と、絶対の包囲網)」


 カラン、と。

 静まり返ったペントハウスの寝室に、氷が融ける微かな音が響きました。


 深夜二時。

 遮光カーテンの隙間から差し込む月光が、ベッドの真ん中で健やかな寝息を立てているななこお姉ちゃんの横顔を、白々と照らし出しています。


 私はベッドの縁に腰掛け、手にしたグラスを傾けながら、その愛おしい寝顔をじっと見つめていました。

 お姉ちゃんの小さな手が、私のパジャマの裾をきゅっと握りしめています。その健気な仕草を見るだけで、私の胸の奥は、焼き尽くされるような熱い愛おしさでいっぱいになるのです。


(ふふ、本当に可愛い……。昔から、ななこお姉ちゃんは何も変わらないですね)


 私はそっと手を伸ばし、お姉ちゃんの柔らかい髪を指先でなぞりました。

 

 私とななこお姉ちゃんが出会ったのは、私がまだ小学五年生の時です。

 あの日のことは、今でも昨日のことみたいに鮮明に覚えています。


 夕暮れの北口公園。ポンコツ妖精に連れられて現れたお姉ちゃんは、パステルピンクのパーカーを着て、顔を真っ赤にしながら叫んだのです。


「はじめまちて……っ! ななこだよぉ!」って。


 あの瞬間、私は、私たちに合わせようとして必死に『子供の擬態』をしているお姉ちゃんの下着のラインや、肌の質感、そして何より身にまとっている大人の空気を、一秒で看破しました。


 子供を騙せると思って、徹夜でググった痛々しいロリ知識を総動員して、指先を震わせながら必死におままごとを続ける姿。

 それを見た時ね……世界がひっくり返るくらい、胸がドキドキしたのです。

 

 なんて健気で、なんて愛しい人なんだろうって。


 普通の大人は、私たち子供のことなんて見下すか、都合よく扱うだけ。なのに、この人は、私たちと同じ目線に立とうと必死に足掻いてくれている。ピンチのときは先頭に立って私たちを守ろうとしてくれる。


 だから、私は決めました。

 この最高に尊いお姉ちゃんを、絶対に私たちの手で守り抜こうって。お姉ちゃんが子供のフリを続けたいなら、完璧に騙されたフリをして、世界一居心地のいい『可愛い嘘の檻』を作ってあげようって、凛とひまりと約束したのです。


 お姉ちゃんは、私たちを引っ張るリーダーだったけれど。

 同時に私たちにとって最初から、守るべき、そしていつか完璧に手に入れたい、最愛の『お姫様』だったんですよ。


 それからの日々は、本当に楽しかった。

 

 魔獣が現れれば、お姉ちゃんは「有給消化の精神」とか言って、ガチの社畜根性でバケモノをボコボコにして私たちを守ってくれました。


 学校のことで悩んでいれば、大人の冷徹で、でも誰よりも優しい処世術を教えてくれました。


 悪の幹部を言葉だけで精神的に圧殺したあの日のお姉ちゃん、本当に格好よくて、私、本気で心臓が止まるかと思ったんです。


 でもね、お姉ちゃん。

 私、ずっと子供のフリをして、お姉ちゃんに甘えるだけの関係でいるのは、本当は我慢ならなかったんですよ。


 お泊まり会の夜、ウチらの包囲網の中でカチコチに固まって、寝たフリをしながら心臓をバクバクさせてるお姉ちゃんを抱きしめた時。


 本当は、そのまま耳元で「全部知ってるよ」って囁いて、大人のやり方でお姉ちゃんを私だけのものにしたかった。

 

 だけど、子供の私がそれを言ったら、お姉ちゃんは逃げちゃうでしょ?


 私たちのことを想って、目の前から消えちゃうかもしれない。


 だから、私は我慢したんです。二十歳になるまで、お姉ちゃんと同じ『大人』という対等なステージに立てる日まで、爪を研ぎながら、じっと我慢しようって。


 私のすべての時間と才能、そして実家の財力も人脈も権力も、全部注ぎ込んで。その日を待ちました。

 私の今の姿も、展開してきたビジネスも、すべては、この日のために作り上げてきたんです。


 お姉ちゃんを縛り付けるブラック企業を合法的に叩き潰すため。お姉ちゃんに一生働かなくてもいいラグジュアリーな楽園を用意するため。お姉ちゃんの薬指を、私たちの愛の証で縛り付けるため。


 ねぇ、お姉ちゃん。

 昨日の夜、魔法が使えなくなった私たちの前に立ちはだかって、一本の万年筆だけで魔獣の残党を瞬殺した時。


 私、もう一度、お姉ちゃんに完璧に恋に落ちちゃいました。

 魔法がなくても、変身できなくても、お姉ちゃんは私たちの最高のヒーローで、そして私たちが一生をかけて監禁し、愛し抜くべき、最愛の女性。


「ん……、ここあ、ちゃん……?」


 月光の中で、お姉ちゃんがうっすらと目をあけ、眠たげに私の名前を呼びました。

 そのあどけない表情が、たまらなく愛おしいのです。


「ふふ、お姉ちゃん。起こしちゃってごめんなさい」


 私はグラスを置き、ベッドに滑り込んで、お姉ちゃんの小さな身体を後ろからぎゅっと抱きすくめました。薔薇の香水が、お姉ちゃんの肌の温もりと混ざり合って、甘く部屋に溶けていきます。


 寝言ともつかない、お姉ちゃんの声。


「うう、ここあちゃん……、もう、デートのローテーションは、勘弁して……」


「ダメですよ。私たちはもう、お姉ちゃんから卒業する気なんて一ミリもないんですから」


 お姉ちゃんの首筋にそっと唇を寄せ、小さく印をつけるように吸い上げます。


 お姉ちゃんはビクリと身体を震わせ、恥羞に顔を染めながら、私の腕の中で小さく丸くなりました。


 もう、どこにも逃がしません。

 私たちがかつて守られたように、今度は私たちの絶対の包囲網の中で、一生、一番近くで甘やかされて生きていってね、ななこお姉ちゃん。


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