表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/13

第二話 眠り

第二話

「ついに、ついに完成したぞ……!」

 

 書斎の床一面を埋め尽くした、気が遠くなるほどに緻密な術式。その中心で、ゼノンは乱れた白髪を振り乱し、狂喜の声を上げた。

 

 あの日から一ヶ月。彼はかつて魔王を滅ぼした時以上の情熱を、この唯一無二の術式構築に注ぎ込んできた。

 対象を時間軸の檻から解き放ち、肉体の律動を停止させる禁忌の魔導。

 

「名付けて、時を渡る極氷の揺り籠――『悠久の凍眠コールドスリープ』!!」

 

 庭の隅、かつて聖域と呼ばれた静謐な場所に、白檀の香りが漂う重厚な石の棺が据えられた。

 ゼノンは愛用の魔導杖を抱きしめ、棺の淵に腰を下ろす。

 

「いいか、ノンちゃん。余が眠っている間、庭のトマトに水をやる必要はない。……だが、余が目覚めるその瞬間に、世界が滅んでいないよう、この屋敷の防衛回路を最大出力に設定しておけ」

 

 足元でシュルシュルと鳴る相棒に最後の命を下すと、ゼノンはゆっくりと棺の中へ横たわった。

 見上げる空は、あの日と同じように高く、澄み渡っている。

 

「……やれやれ。まさか隠居してから、二百年後の後輩たちの尻拭いをさせられる羽目になるとはな」

 

 不敵な笑みを浮かべ、彼は杖を胸元で構えた。

 

「案ずるな、未来の奴らよ。余という『最強』が、少しばかり到着が遅れるだけだ。それまでせいぜい、泣きべそをかきながら待っておれ」

 

 ゼノンが最期の詠唱を口ずさむ。

 瞬間、石の棺から溢れ出した白銀の冷気が、彼の四肢を、衣を、そして白銀の髪の一本一本を、永遠を象徴する結晶へと変えていく。

 

 やがて、重厚な石の蓋が自ずと閉まり、世界から「大賢者」の気配が完全に消失した。

 

 春が過ぎ、秋が訪れ、冬が世界を白く塗り潰す。

 あるじを失った庭には雑草が茂り、輝いていた魔法回路は時と共に風化し、かつての聖域はいつしか歴史の闇へと埋もれていった。

 

 百年。そして、二百年。

 

 平和に慣れすぎた人類が、ゼノン・アルカディアという名を「御伽話」として忘れ去った頃。

 運命の歯車が、錆びついた音を立てて回り始める。

 

 ――大賢者の目覚め。

 それが聖域ではなく、不法投棄された粗大ゴミの山の中であることを、眠りについた彼は、まだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ