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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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二百五十四話 織田信長、京へ号令す

本能寺。

秀吉の尋問が一段落した。

だが、信長の中では、もはや疑いようのないところまで来ていた。

本能寺の一件は、秀吉一人の謀反ではない。

秀吉の背後にいる者。

近衛前久を通じて繋がった者。

そして、そのさらに奥。

朝廷内部、それも相当に深いところにいる者が関与している。

信長は光秀を呼んだ。


「光秀」

「はっ」

「京を調べるぞ」

「……やはり」

「うむ」

信長は秀吉を見る。

「こやつの話を聞けば聞くほど、朝廷の表だけを調べても意味がない」

光秀も頷いた。

「秀吉殿自身が、直接会った者のさらに先に誰かがいると申しております」

「ならば、その糸を辿る」

信長は立ち上がった。

「ただし――」

光秀が顔を上げる。

「朝廷そのものを敵にするつもりはない」

「承知しております」

「問題は、朝廷の権威を盾にして、己の欲を通そうとする者だ」

信長の声が低くなる。

「それを見つける」


その日のうちに、織田軍は動き始めた。

捕らえた秀吉、黒田官兵衛らは厳重な監視のもと移送される。

秀吉は岐阜へ。

そして、その後は安土へ。


一方、京では織田家の手の者たちが動き始めた。

公家の邸。

寺社。

商人。

宿場。

武家屋敷。

そして朝廷に出入りする者たち。

誰が誰と接触したのか。

どの書状がどこから届いたのか。

誰が征夷大将軍の話を持ち出したのか。

一つずつ調べていく。

しかし――。

調べれば調べるほど、事態は深くなった。

「……信長様」

報告を受けた光秀が眉を寄せる。

「何だ」

「複数の公家が、同じ時期に同じような話を受け取っております」

「誰からだ?」

「それが、分かりませぬ」

「分からぬ?」

「はい。直接の差出人は別々。しかし、その内容には共通点がある」

「つまり」

信長が言う。

「同じ者が、複数の人間を別々に動かしていた可能性がある」

「その通りにございます」

信長は目を細めた。

「……厄介な奴だ」

もはや、ただ探っている場合ではなかった。

信長は決断した。


「全ての関係者へ書状を出せ」

「どこまで?」

「関東から四国まで」

光秀が目を見開く。

「……全てでございますか?」

「うむ」

信長は筆を取った。

「織田家に与する者だけではない」

そして、一筆ずつ書き進めていく。

「皆の者、できうる範囲でよい」

「……」

「一月後までに京へ集まれ」

光秀は書状を見つめた。

これは、単なる招集ではない。

織田信長が天下に向けて発する号令だった。

信長は最後に、こう記した。

これは戦ではない。

……いや、ある意味では戦なのかもしれぬ。

朝廷の御威光を盾にし、何をしても許されると思う者がいるならば、その者を見逃すことはできぬ。

朝廷を守るためにも、そのような者は排除する。

各々、できる限りの兵を率いて京へ参集せよ。



そして、もう一通。

毛利へ対する檄文である。

信長は筆を止めずに書き続けた。

毛利家が織田家の抹殺を企てた者たちと関わったこと、既に承知している。

正々堂々と戦うのではなく、姑息な輩と手を結び、漁夫の利を得ようとした。

そのような者を、このまま捨て置くことはできぬ。

毛利周辺の国衆に告ぐ。

毛利の下にいることが、本当に己の家を守ることになるのか、今一度考えよ。

信長は筆を置いた。

「これを送れ」

「はっ!」

書状は次々と各地へ運ばれていった。


そして――。

反応は凄まじかった。

東国

織田と同盟関係にある国衆のもとへ書状が届く。

「一月後までに京へ?」

家臣が驚く。

「信長様が、そこまで大規模な動きを?」

「本能寺で何かあったという噂は聞いておる」

「ならば行くぞ」

「兵は?」

「出せるだけ出せ」

次々と兵を集め始める。


畿内

織田家と関係の深い国衆たちは、即座に準備へ入った。

「これは単なる上洛ではない」

「そうだ」

「信長様が、天下に向けて何かを示そうとしている」


四国

書状を受け取った者たちも動いた。

「京へ兵を出せとのことだ」

「ならば応じるしかあるまい」

「いや……」

一人の国衆が書状を読み直す。

「信長様は『戦ではない』と書いておられる」

「だが――」

別の者が呟く。

「戦より恐ろしいことを始めるつもりなのではないか?」


毛利領周辺

こちらの反応は、さらに激しかった。

信長の檄文が届くと、毛利に従う国衆の間に動揺が走った。


「毛利が織田家の抹殺に関与しただと?」

「そんな話、我らは聞いておらぬ!」

「もし本当なら……」

「織田は必ず攻めてくる」

「ならば毛利は我らを守れるのか?」

疑心暗鬼が広がっていく。

そして、信長の狙いはそこにもあった。

毛利を攻めるだけではない。

毛利の周囲にいる国衆へ、選択を迫る。


その頃、岐阜。

玉のもとにも、信長からの知らせが届いた。

「一月後……京へ」

玉は書状を読み終えると、静かに息を吐いた。

「父上は、本気なのですね」

傍らにいた信忠が頷く。

「うむ」

「本能寺で終わらせるつもりはない」

「父上は、黒幕を必ず見つけるつもりだ」

玉は書状を見つめた。

そして、小さく呟く。

「……京そのものが、舞台になる」

信忠も答えなかった。

二人とも分かっていた。

一月後。

京には、おそらく数万どころではない兵が集まる。

織田信長の号令に応じて、各地から兵が押し寄せる。

そして――。

朝廷のすぐ近くまで、織田の大軍が集結することになる。

これは戦なのか。

それとも、戦を起こさないための圧力なのか。

その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。


ただ一人――。

京の奥深くにいる人物だけが、静かにその知らせを聞いていた。

「……数十万、ですか」

その人物は、しばらく黙っていた。

本能寺は失敗した。

信長は生きている。

信忠も生きている。

そして今――。

織田信長自身が、京へ向けて天下を動かし始めた。

「……思った以上に、早い」

静かに呟いた。

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