↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
248/258

二百四十八話 本能寺の裏――まだ終わっていない

本能寺。


岐阜からもたらされた急報の後、しばらく誰も口を開かなかった。

秀吉は俯いたまま、身動き一つしない。

信長はそんな秀吉をじっと見ていた。


「猿」

「……はい」

「岐阜の刺客について、知っていることを全て話せ」

「……」

「今度こそ嘘は許さぬ」

秀吉は唇を噛んだ。

「……岐阜へ送った者がいることは、存じております」

信忠の目が鋭くなる。


「やはりか!」

「ですが、私が直接命じたわけではございませぬ!」

「誰の命令だ!」

「……」

「答えろ!」

秀吉は震えながら首を振った。

「そこまでは……」

「また嘘か!」

信忠が怒鳴る。


「本能寺を襲う一万の兵を用意できる者が、岐阜に刺客を送り込む手配を知らぬだと?」

「……」

「信じろという方が無理だ!」

秀吉は答えられない。

そこへ光秀が静かに口を挟んだ。

「一つ確認したい」

「……」

「岐阜への刺客は、玉様だけを狙っていたのか?」

秀吉の目が泳ぐ。

「……違います」

「では?」

「安寧丸様も……」

信忠の顔が強張った。

「幼子までか」

「……」

「それだけではないな」

光秀が問い詰める。

「信秀様も対象だったのでは?」

秀吉は完全に黙り込んだ。

その沈黙を見て、信長が静かに言った。


「図星か」

秀吉は俯いた。

「……はい」

信忠は拳を握りしめた。

「つまり、父上、俺、信秀様、玉、安寧丸まで……」

光秀が続けた。

「織田家の中枢と血筋を、一度に断つつもりだった」

「……」

信長は秀吉を見つめた。

「猿」

「……はい」

「儂と信忠が本能寺で死ぬ」

「……」

「信秀も死ぬ」

「……」

「玉と安寧丸も死ぬ」

「……」

「そこまでやって、織田家をどうする?」


秀吉はしばらく黙っていた。

そして、観念したように答えた。

「……織田家を、完全に分裂させるつもりでございました」

「具体的に言え」

「信長様と信忠様が同時に亡くなれば、織田家中は必ず揺れます」

「続けよ」

「信秀様まで亡くなれば、織田家をまとめられる者はさらに減る」

「玉は?」

「玉様は織田家の血筋を繋ぐ存在となります」

「だから消す」

「……はい」

「安寧丸もか」

「……はい」

信長の表情が険しくなる。

「徹底しているな」

秀吉は俯いた。

「その後、各地の織田家臣に別々の話を持ち掛けます」

「内部分裂か」

「はい」

「そしてお前がまとめる」

「……はい」

「天下を取る」

「……」

「そういうことだな」

「……はい」

信長はしばらく黙った。


そしてふっと笑った。

「なるほど」

信忠が父を見る。

「父上?」

「儂一人を殺すだけでは、天下など取れぬ」

信長は秀吉を見た。

「だから嫡男まで消す」

「……」

「織田家の血筋も消す」

「……」

「その上で、朝廷に新たな秩序を認めさせる」

秀吉は答えない。

「よく考えたものだ」

信長の声には、怒りよりも冷たい興味が混じっていた。


「だが、一つ足りぬ」

秀吉が顔を上げる。

「何がでございますか?」

「誰がその道筋を作った?」

「……」

「お前は天下を欲した」

「はい」

「官兵衛も協力した」

「……はい」

「毛利の一部も動いた」

「……」

「寺社も動いた」

「……」

「公家も動いた」

「……」

「そして朝廷にも話が通っている」

「……」

信長は一言ずつ確認する。

「これほどの者を、どうやって一つにまとめた?」

秀吉の顔色が悪くなる。


「……」

「誰が橋を架けた?」

「……」

「誰が、お前たちに『織田を倒せる』と思わせた?」

秀吉は答えない。

光秀が口を開いた。

「秀吉殿」

「……」

「あなたは天下を望んでいる」

「はい」

「ならば、今回の謀略はあなたにとって絶好の機会だった」

「……」

「しかし、あなた自身が全てを仕組んだわけではない」

秀吉は黙っている。

「誰かがあなたの野望を利用した」

「……」

「違いますか?」

秀吉の肩が震えた。


信忠がそれを見逃さなかった。

「その反応……」

一歩近づく。

「やはりいるのだな」

「……」

「お前の後ろにいる者が」

秀吉は目を閉じた。

しかし、口を開くことはなかった。

信長はため息をついた。

「まだ隠すか」

「……」

「ならば別のことを聞こう」

秀吉が恐る恐る顔を上げる。

「お前は本能寺を襲う前、何を知っていた?」

「……」

「儂が本能寺に泊まることを、いつ知った?」

「……事前に」

「誰から?」

「……」

「信忠も同行することを知っていたのか?」

「はい」

「玉が五千の兵を送ることは?」


秀吉の表情が変わった。

「……それは存じませんでした」

「だから苦戦した」

「……」

「一万の兵を用意していたにもかかわらず、千の信忠隊と儂の周囲の兵を押し切れなかった」

信長は笑った。

「玉の五千が来たことで、お前の計算は完全に狂った」

秀吉は何も言えない。

信忠が続ける。

「玉はお前たちの計画を知らなかった」

「……」

「それでも危険を感じて兵を送った」

「……」

「結果として、父上も俺も助かった」

秀吉の顔が歪む。

「……まさか、ここまで読まれるとは」

その一言に、信忠が反応した。


「今、何と言った?」

秀吉が口を閉じる。

「『ここまで読まれるとは』と言ったな」

「……」

「誰が玉を警戒していた?」

「……」

「玉の動きを、事前に把握していた者がいたのか?」

秀吉は答えない。

信長の目が鋭くなる。

「なるほど」

信長は低く呟いた。

「儂らを殺すだけではない」

「……」

「玉が何を考え、どう動くかまで計算していた」

光秀も表情を変えた。

「ならば、岐阜への刺客も……」

「本能寺と同時に動かした」

信長が言った。

「そう考えるべきでしょう」

秀吉は沈黙している。

その時、信忠が再び口を開いた。

「秀吉」

「……」

「玉は本当にお前の計画を知らなかった」

「……はい」

「だが玉は、父上と俺を救った」

「……」

「そして今、岐阜でも刺客を退けた」

秀吉は俯く。

「お前たちの計画は、二度も玉に邪魔されたわけだ」

「……」

信忠の声が冷たくなる。

「それでもまだ、玉が偶然動いただけだと言うのか?」

秀吉は答えられなかった。


信長が立ち上がる。

「よい」

秀吉が顔を上げる。

「今日はここまでだ」

「……」

「だが勘違いするな」

信長は秀吉を見下ろした。

「お前が隠していることは、必ず暴く」

秀吉は何も言わなかった。

信長は光秀を見る。

「光秀」

「はっ」

「京の動きを調べよ」

「承知いたしました」

「公家、寺社、朝廷」

「はい」

「そして徳川もだ」

光秀が一瞬だけ目を見開いた。

「徳川……でございますか?」

「疑っているわけではない」

信長は答えた。

「だが、これほど大きな策だ。全ての動きを照らし合わせねばならぬ」

「承知しました」

信忠も頷く。

「俺は織田家中を調べます」

「頼む」

信長は最後に秀吉を見た。

「猿」

「……はい」

「お前が天下を望んだことは分かった」

「……」

「だが、お前の野望を利用していた者がいる」

秀吉は目を伏せる。

「そいつがお前を捨て駒にした可能性もある」

「……」

「その者の名を聞くまで、儂は終わらぬ」


秀吉は答えなかった。

しかし、その顔には明らかな恐怖が浮かんでいた。

信長はそれを見て確信する。

秀吉はまだ、最大の秘密を隠している。

そして岐阜では、玉もまた同じ疑念を抱き始めていた。

本能寺と岐阜。

二つの襲撃は、果たして別々の出来事なのか。

それとも――。

全ては一つの巨大な謀略によって繋がっているのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。