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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第二百四十七話 岐阜の疑念――もう一つの策

岐阜城。

本能寺からの急報を受けた玉は、父・信長と信忠の無事を知り、ようやく胸を撫で下ろしていた。


「……よかった」

二人とも無事だった。

本能寺を襲った一万の兵も退けられ、秀吉も捕らえられた。

玉が最も恐れていた最悪の事態は、ひとまず回避された。


しかし――。

「……何かがおかしい」

玉の胸には、どうしても引っかかるものが残っていた。

玉はしばらく考えた後、蒲生賢秀を呼んだ。

「お方様、お呼びでしょうか」

「はい。蒲生殿、少し相談したいことがあります」

「何なりと」

玉は静かに話し始めた。

「まず、本能寺のことです」

「はい」

「そして、こちら岐阜のこと」

賢秀の表情が引き締まる。

「刺客が城内に入り込んでいました」

「……はい」

「しかも、私のすぐ近くまで入り込んでいた」

玉は傷を負った手を見る。

「これは偶然とは思えません」

「私もそう考えております」

「そして、もう一つ」

玉は顔を上げた。


「徳川です」

賢秀が僅かに眉を動かした。

「徳川……」

「三宅康貞殿が来たことです」

玉は一つずつ整理していく。

「徳川方から、石川数正殿が京へ上ることについて、控えたほうがよいと進言してきた」

「はい」

「そして、その話を聞いたことで、私は信長様に書状を送りました」

「……」

「結果として、その書状が本能寺へ向かうきっかけの一つになった」

玉はそこで言葉を止めた。


「そして、その徳川から来た者が、まるで『徳川は今回の謀略とは関係ない』と証明するかのような情報を持ってきた」

蒲生は黙っている。

「おかしいと思いませんか?」

「……」

「時期が良すぎるのです」

玉の声が低くなる。

「本能寺の直前」

「……」

「徳川から来た者が、京へ行くのを控えるよう進言する」

「……」

「さらに、その話が結果的に徳川の潔白を証明する材料になる」

「……」

「そして実際に、徳川は信長様を襲っていない」

玉は賢秀を見る。


「都合が良すぎませんか?」

賢秀はしばらく考えていた。

そして、ゆっくり頷く。

「……確かに、不自然でありまするな」

「でしょう?」

「徳川が本当に潔白ならば、それに越したことはございませぬ」

「ええ」

「しかし、お方様の仰る通り、あまりにも出来過ぎております」

玉は頷いた。

「私は徳川が黒幕だと言っているわけではありません」

「はい」

「むしろ逆です」

「逆?」

「誰かが、徳川を疑わせないように動いている可能性があります」

蒲生の顔が険しくなった。

「……徳川を利用した?」

「あるいは、徳川自身が知らぬところで利用された」

「なるほど」

「もっと恐ろしいのは――」


玉は続けた。

「徳川が潔白であることを、私たち自身に証明させるような動きになっていることです」

賢秀は腕を組んだ。

「確かに妙でございます」

「だから、私は用心したいのです」

玉は立ち上がった。

「蒲生殿」

「はっ」

「安土からでも、それ以外からでも構いません」

「……」

「信頼のおける者に頼み、岐阜へ援軍を送ってもらえるよう取り計らってください」

賢秀は驚いた。

「お方様……まさか」

「何が起こるかは分かりません」

「しかし、まさか徳川まで……」

「分かりませぬ」


玉は首を振った。

「私にも分かりません」

そして、静かに言った。

「ですが、用心に越したことはないでしょう」

賢秀はしばらく玉を見つめた。

やがて深く頭を下げる。

「承知いたしました」

「早急にお願いします」

「はっ!」

賢秀はすぐに部屋を出た。

そして廊下へ出ると、待機していた家臣を呼び寄せる。

「安土へ急ぎ使者を出せ!」

「はっ!」

「安土に残っている兵を、可能な限り岐阜へ呼び寄せる!」

「全てでございますか?」

「そうだ!」


賢秀は即答した。

「ただし、城を完全に空にするな。最低限の守備兵は残せ」

「承知いたしました!」

さらに賢秀は別の家臣を呼んだ。

「書状を書く」

「はっ」

「安土だけではない。私が信頼できる者にも送る」

「援軍要請でございますか?」

「そうだ」

賢秀は筆を取った。

「事情は詳しく書く。ただし、内容が外へ漏れぬよう十分注意せよ」

「承知!」

こうして、複数の使者が岐阜から走り出した。


一方、玉も動いていた。

「城内にいる者を一度、全て確認します」

「お方様?」

「侍女、女中、使用人、出入りの商人まで」

玉は言った。

「一旦、必要のない者は城外へ出してください」

「しかし……」

「敵が内部に入り込めるなら、人数が多いほど危険です」

「……承知いたしました」

玉は続ける。

「城内に残す者は最小限に」

「はい」

「そして、残った者の身元を一人ずつ確認してください」

「かしこまりました」


さらに玉は蒲生へ伝えた。

「武器庫も開けてください」

「武器庫を?」

「鉄砲を用意してください」

「……!」

「焙烙玉も」

賢秀は目を見開いた。

「お方様、本当にそこまで?」

「何も起こらなければ、それでいいのです」

玉は静かに答えた。

「使わずに済むなら、それが一番です」

そして窓の外を見る。

岐阜の町。

いつもと変わらない景色。

しかし玉には、その景色さえ不気味に感じられた。

「本能寺で一万の兵が動いた」

「……」

「そして、こちらには刺客が入り込んでいた」

玉は小さく呟いた。

「ならば、まだ終わっていないと考えるべきでしょう」

賢秀は黙って頷いた。


「お方様」

「はい」

「もし、本当に何かが起きるとすれば……」

玉は答えた。

「その時は、私たちが備えているかどうかで結果が変わります」

玉は安寧丸を見つめた。

「私は、もう後悔したくありません」

本能寺へ向かう信長と信忠。

その二人を救うため、玉は五千の兵を送り出した。

その判断が二人の命を救った。

ならば今度も――。

「備えましょう」

玉の声は静かだった。

しかし、その目には強い決意が宿っていた。


「敵が誰なのか分からなくても」

「はい」

「何も起きなくても構いません」

玉は傷ついた手を握る。

「ただ、何かが起きた時に――」

「迎え撃てるようにしておきましょう」

岐阜城。

その日から、城内の警備は一変した。

城門には兵が増え、出入りする者は厳しく調べられる。

武器庫からは鉄砲が運び出され、焙烙玉も準備された。

そして、城内からは不要な者が一旦退去させられていく。

誰もが疑問を抱いていた。

なぜ、ここまで警戒するのか。

しかし玉だけは分からなかった。

ただ一つ。

本能寺の謀略は、まだ終わっていない。

そんな予感だけが、どうしても消えなかった

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