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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第二百四十話 本能寺七日前――玉の決断

玉は、三宅康貞との対面を終えた。


康貞から聞かされた話。

この一連の動きの裏には、何者かが画策していること。

徳川家そのものも、知らぬうちに利用されている可能性があること。

そして――石川数正が上京することを控えたほうがよいと、康貞が忠告してきたこと。

玉は、それらすべてを頭の中で繋ぎ合わせていた。


一つ一つは、決定的な証拠ではない。

だが、すべてを重ね合わせると、一つの結論しか浮かばなかった。

――信長を亡き者にするための策が、すでに動いている。


そして、そのさらに背後。

まだ確証はない。

それでも玉には、一人の人物が浮かんでいた。

「……近衛前久様」

その名を口にした瞬間、玉は自分自身の考えに背筋が冷たくなるのを感じた。

もし、本当に近衛が関わっているのなら。


朝廷。

寺社。

徳川。

そして織田。

それぞれの思惑を利用し、一つの結末へと導くことができる。

玉は急いで信忠と光秀に報告した。


二人は黙って玉の話を聞いていた。

そして――

「……何だと?」

信忠が、すくっと立ち上がった。

隣にいた光秀も同時に立ち上がる。

二人の顔から、血の気が引いていた。

「父上を……亡き者にする策が、もう動いているというのか?」

信忠の声が低くなる。

「はい」

玉は頷いた。

「まだ確証はありません。ですが、私にはそうとしか思えません」

光秀は何も言わなかった。

ただ、玉の言葉を一つ一つ頭の中で組み立てている。

そして、やがて呟いた。

「……もし本当にそうなら、残された時間は」

「七日です」


玉が答えた。

光秀の顔が強張った。

「七日……」

「今から準備して間に合うのか?」

信忠も焦りを隠せなかった。

信長が本能寺へ入る。

その前に何らかの手を打たなければならない。

だが、信長自身がその危険を信じるとは限らない。

下手をすれば、警戒させたことによって別の動きを誘発する可能性すらある。

「しかし」

光秀が顔を上げた。

「だからといって、じっと待つわけにはいきません」

信忠が頷く。

「その通りだ」

二人の目に、覚悟が宿った。

織田家そのものの存続が懸かっている。

「ならば、すぐに動く」


玉は二人を見つめた。

そして、最後に一つだけ訴えた。

「信忠様」

「何だ?」

「父上に……信長様を止めるよう、必ず伝えてください」

「分かった」

「それでも、もし……」

玉は一度言葉を止めた。

「もし、信長様を止められなかった場合に備えてください」

信忠は黙って玉を見る。

「本能寺の付近へ、織田の軍勢を」

「……!」

「万一の時、救援に向かえる距離に兵を置いておけば、最悪の事態だけは防げるかもしれません」

光秀も頷いた。

「理に適っております」

「信長様が無事なら、それでよいのです」

玉は言った。

「何も起きなければ、それが一番なのですから」

信忠は力強く頷いた。

「分かった。すぐに動こう」

光秀も続いた。

「私も参ります」

二人は玉に一礼すると、すぐに部屋を出ていった。

足音が遠ざかっていく。


玉は一人になった。

「……これ以上、私にできることは……」

何も思いつかなかった。

信長を止める。

本能寺周辺に兵を置く。

そして、裏で動く者を探る。

それ以上は、玉にはできない。

玉は静かに座り込んだ。

そして――ふと、考える。

もし、自分がこの世界に来ていなかったら。

もし、何も知らずに歴史通りの時間を過ごしていたなら。


父は――

「……本能寺の変を起こしていた」

玉は自分の父、明智光秀を思った。

あのままなら。

恐らく父は、史実通りに本能寺へ兵を向けていた。

だが、それは父自身が突然思いついた謀反ではなかったのではないか。

これほどまでに用意周到に、信長を孤立させ、周囲を動かし、逃げ場をなくしていく策が仕組まれていたのなら。


父は――

その最後の一手を実行させられていたのではないか。

玉の背筋に、冷たいものが走った。

「……怖い」

初めてだった。

本能寺の変そのものではない。

歴史の裏側に、これほど巨大な策が存在していたかもしれないという事実が怖かった。

玉は今まで、歴史を結果で見ていた。

本能寺の変が起きた。

明智光秀が謀反を起こした。

信長が討たれた。

それが歴史として残っている。


だが――

「歴史は……結果しか残さない」

玉は呟いた。

誰が何を考えていたのか。

誰が誰を利用したのか。

誰が、どのような情報を与えたのか。

どこまでが本人の意思で、どこからが誰かによって誘導されたものなのか。

それを完全に実証することなど、できない。

歴史書に残るのは、最後に起きた出来事だけ。

その裏側にあった無数の思惑までは、決してすべて残らない。


玉は両手を握り締めた。

「……私は、何も知らなかった」

史実では、父が本能寺を襲った。

それだけを知っていた。

だが今、自分がその七日前に立ってみて初めて分かった。

本能寺の変という一つの事件の背後には、もっと複雑な人間の思惑が絡み合っていた可能性がある。

そして――

もし玉が何もしなければ。

父は。

信長は。

織田家は。

史実と同じ結末を迎えていたかもしれない。


玉は、窓の外を見た。

あと七日。

「……絶対に変えてみせる」

小さな声だった。

だが、その言葉には強い意志が込められていた。

歴史を知っているからこそ、歴史の恐ろしさを知った。

そして玉は、初めて理解した。


歴史とは、結果だけを見て判断するものではない。

その結果に至るまでには、記録されなかった無数の思惑と偶然、そして誰にも知られなかった選択が存在する。


だからこそ――

本能寺の七日前。

玉は、自分が知っている「歴史」というものを初めて疑った。

そしてその瞬間から。

本能寺の歴史は、少しずつ変わり始めていた。

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