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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第二百三十九話 本能寺七日前――残された七日

天正十年。

本能寺の変まで、あと七日。


玉は、朝から一人で書状を見つめていた。

机の上には、信長からの返書。

そして、その横には三宅康貞が残していった一枚の紙。

墨で塗り潰された名前。

玉は昨夜から、何度もその紙を見ていた。


「……七日」

呟いた。

信長が上洛する。

その動きは、もう止められない。

だが、玉には一つだけ確信があった。

――まだ間に合う。

本能寺で何かが起きる。

その確信だけは、玉の中から消えなかった。

これまで起きたこと。

婚姻を巡る動き。

信長の上洛。

朝廷との折衝。

徳川の動き。

寺社との交渉。

そして、京の裏側で蠢く者たち。

すべてが一本の線で繋がっている。

玉は紙を見つめた。


「……石川数正」

三宅康貞が直接名前を口にしたわけではない。

だが、徳川の外交を動かしているのは数正。

その側近である康貞が、玉の前に姿を現した。

ならば、数正が何かを知っている可能性は高い。


しかし――。

玉は首を横に振った。

「違う……」

数正だけでは説明がつかない。

信長の周囲まで動かすことはできても、朝廷と寺社、そして自分の婚姻まで一つに繋げるには、さらに上の視点が必要になる。

そこで玉の脳裏に、一人の人物が浮かんだ。

「……近衛前久様」

玉は立ち上がった。

しかし、すぐに座り直す。

疑うだけなら簡単だ。

だが、近衛前久を直接疑う証拠はない。

むしろ、これまで玉に示してきた態度を考えれば、敵とは思えない。


だからこそ――怖かった。

もしも近衛が関わっているのなら。

それは玉を害するためではなく、もっと大きな何かを動かすためなのではないか。

「私の婚姻も……そのための駒だった?」

玉の胸が締め付けられる。


その時。

廊下から足音が聞こえた。

「お方様」

侍女の声。

「三宅康貞殿が、再び参られております」

玉は顔を上げた。

「……通してください」

ほどなくして康貞が入ってきた。


昨日と同じ、落ち着いた表情だった。

しかし今日は、その目に明らかな焦りがあった。

「お方様」

「三宅殿。何か分かったのですね?」

康貞はしばらく黙っていた。

そして、懐から一通の書状を取り出した。

「昨夜、数正様より届いたものにございます」

玉の目が書状へ向く。

「何と?」

「京へ向かう動きを、一度止めるべきではないか、と」

玉は息を呑んだ。


「……数正殿が?」

「はい」

「なぜ急に?」

康貞は答えなかった。

その沈黙が、玉には答えのように思えた。

「何か起きるのですか?」

「分かりませぬ」

「三宅殿」

「本当に分からぬのです」

康貞の声が初めて揺れた。

「ですが、数正様は長年、京と徳川の間を見てきたお方。その数正様が、これほど強く上洛を警戒されるのは異例にございます」

玉は書状を受け取った。


そこには短い言葉しかなかった。

――今は京へ近づくべきではない。

それだけ。

玉は書状を握り締めた。

「……七日」

「はい?」

「信長様が本能寺に入られるまで、おそらく七日です」

康貞の顔色が変わった。

「お方様……今、何と?」

玉は康貞を見た。

「私は、信長様の身に危険が迫っていると思っています」

「まさか……」

「根拠はありません」

「ならば、なぜ――」

「これまで起きたことが、あまりにも綺麗に繋がりすぎています」


玉は立ち上がった。

「信長様は、自分が動かされていることに気づいていない」

「……」

「徳川も同じ。朝廷も、寺社も、それぞれが自分たちの目的で動いているように見える。でも、その動きが一つの場所へ集められている」

「その場所が……」

「本能寺」


部屋に沈黙が落ちた。

康貞は玉を見つめていた。

やがて、低い声で尋ねる。

「もし、それが事実なら……どうされるおつもりですか?」

玉は答えた。

「信長様を止めます」

「……」

「上洛そのものを止めることができなくても、本能寺へ入ることだけは避けてもらう」

「しかし、信長様が玉様の言葉を――」

「だから、証拠が必要なのです」

玉は書状を机へ置いた。

「私はもう、信長様にお願いするだけでは駄目だと思っています」

そして、一枚の紙を康貞へ差し出した。

そこには、これまで玉が集めた情報が書き連ねられていた。

「これを徳川へ」

康貞が目を見開く。

「そして、数正殿へ伝えてください」

「何と?」

玉は一瞬だけ迷い、そして言った。

「『七日しかありません』と」


康貞の表情が険しくなる。

「……七日」

「はい」

玉は窓の外を見た。

京へ続く道。

その先には、まだ何も起きていない。

だが、玉には見えていた。

七日後。

歴史が大きく動く。

そして、その中心に信長がいる。

「七日あれば……」

玉は拳を握った。

「一人の命を救うには、十分です」

康貞は深く頭を下げた。

「承知いたしました」

康貞が部屋を出ようとした、その時だった。

「三宅殿」

「はい」

「もう一つ」

玉は振り返った。

「近衛前久様について調べてください」

康貞の足が止まる。

「……近衛様を?」

「はい」

「何を?」

玉は静かに答えた。

「この一連の動きの最初に、誰が関わっていたのか」


康貞はしばらく玉を見つめた。

そして――

「承知いたしました」

そう言って部屋を出ていった。

一人残された玉は、机の上の紙を見つめる。

七日。

長いようで、短い。

本能寺で何かが起きる。

その確信だけが、日に日に強くなっていた。

だが玉はまだ知らない。

この時すでに、別の場所でも一人の男が動き始めていた。


近衛前久。

そして――

その男のもとにも、一通の書状が届いていた。

差出人は、石川数正。

書状を読み終えた近衛は、静かに目を閉じた。

「……あと七日か」

その呟きには、これまでにない緊張が滲んでいた。

「ここまで来てしまったか……」

近衛は立ち上がる。

そして、誰もいない部屋で一言だけ呟いた。

「玉……そなたがどこまで辿り着いたのか」

その顔から、いつもの穏やかな公家の表情が消えていた。

「……確かめねばならぬ」

本能寺まで、あと七日。

玉は信長を救うために動き出した。

だが、その七日間に――

玉自身の知らないところで、もう一つの策が動き始めていた。

ついに画策している人物が出てきましたね

今後の展開も自分自身も楽しみにしています。

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