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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第二百三十五話 「深まる謎」

玉が裏の者たちへ調査を命じてから、一月が経った。


最初の頃は、これといって決定的な情報は入ってこなかった。

だが、時間が経つにつれて。

少しずつ。

本当に少しずつではあるが、玉のもとへ気になる話が届くようになっていた。


「……きな臭い話が、増えてきましたね。」

玉は報告を持ってきた者を前に、静かに呟いた。

「はい。」

「まだ確定ではございません。」

「分かっています。」

玉は報告書へ目を落とす。

ある家臣の配下が、妙な時期に京へ出入りしていた。


別の者は、普段なら接触しない人物と何度か接触している。

さらに、その人物と繋がる商人が、通常とは違う動きを見せている。

一つ一つを見れば、ただの偶然とも言える。

仕事の都合。

商売の都合。

使者としての往来。

どれも、それだけなら不自然とは言えない。


しかし。

それらがいくつも重なり始めている。

「まだ、この人が何かをしているとは言えませんね。」

「はい。」

「ですが……。」

玉は報告書を閉じた。

「これからが正念場です。」

そして、裏の者たちへ視線を向ける。

「これまで以上に慎重に進めてください。」

「決して相手に気づかれないように。」

「そして、誰か一人に絞り込むのもまだ早いです。」

「承知いたしました。」

「怪しいからといって、こちらから接触してはいけません。」

「はい。」

「ただ、追ってください。」

「誰と会い、誰から何を受け取り、誰へ何を伝えているのか。」

「その先に何があるのかを、見極めてください。」

「はっ。」

男は深く頭を下げた。


玉はその背中を見送った。

これまでよりも多くの者が動いている。

岐阜。

安土。

京。

そして関東。

それぞれに散らばり、織田家臣たちだけではなく、その配下、そのまた配下まで調べている。

それでも――。

まだ、分からない。

「……誰なの?」

玉は一人、呟いた。

調べ始めて一月。

玉の中には、以前とは違うものが生まれていた。

恐怖だけではない。

混乱だった。

少しだけ概要が見えてきた。

だが。

見えれば見えるほど、謎が深くなっていく。

「なぜ……?」

玉は考える。

仮に、誰かが信長に対して何かを企てているのだとすれば。

動機は何なのか。


天下を狙っているのか。

織田家への不満なのか。

自らの立場への不満なのか。

それとも、誰かに利用されているのか。

「分からない……。」

玉は額に手を当てる。

自分の知っている歴史では、本能寺の変は起きた。

だが。

この世界では、すでに何もかもが変わっている。

父・明智光秀は信長の信頼を得ている。

信忠も健在。

織田家は関東へ勢力を伸ばし、北条とも協力体制を築いた。

西国でも織田に臣従する者が増えている。

そして何より。

自分には安寧丸がいる。

「……それでも、本能寺が起こるの?」

分からない。

もしかしたら起きない。


しかし。

もし起きるのなら。

あと二か月ほどしかない。

時間だけが、確実に減っている。

「どうすればいいの……。」

玉は焦りを感じ始めていた。

誰かを疑うだけでは駄目。

だが、誰かを名指しして動けば、逆に相手を刺激する可能性もある。

慎重に動かなければならない。

しかし、慎重すぎれば間に合わない。

その板挟みだった。


一方。

安土城。

「……ようやく戻ってきたか。」

家臣たちが安堵する。

岐阜に長く滞在していた信長が、ついに安土へ戻ってきたのである。

さすがに天下を動かす者が、一つの城を長期間空け続けるわけにもいかない。

「仕方あるまい。」

信長はそう言いながら、渋々安土へ戻ってきた。

本心では、まだ岐阜にいたかった。

もちろん。

安寧丸のそばに。

だが、政務は待ってくれない。

「安寧丸は元気にしておるだろうな。」

帰還して早々、そんなことを口にする信長に、家臣たちは苦笑する。

「お元気との報告が届いております。」

「そうか。」

信長は満足そうに頷いた。

そして。

信長が安土へ戻ったことで、ひそかに喜んでいる男がいた。


明智光秀である。

「……ようやくですな。」

妻が呆れた顔をする。

「何がです?」

「信長様が安土へ戻られました。」

「それが?」

「これでようやく、私も孫を思う存分可愛がれます。」

光秀は嬉しそうだった。

岐阜にいる間。

安寧丸を抱いていたのは、ほとんど信長だった。

光秀が抱こうとすれば、

「まだじゃ。」

「そのうちじゃ。」

と、ことごとく阻まれた。

まさに信長に孫を占領されていたのである。

「これからは、ゆっくりと顔を見られますな。」

光秀は嬉しそうに言う。


すると。

母親から冷静な一言が飛んできた。

「殿。」

「何でしょう?」

「お勤めは、よろしいのですか?」

「……。」

光秀の動きが止まった。

「安土へ戻られた信長様がお仕事をなされているというのに、殿だけ孫を抱いて一日を過ごすおつもりですか?」

「いや、それは……。」

「織田家の重臣でございましょう?」

「……はい。」

「でしたら、お役目を果たしてくださいませ。」

ぐうの音も出ない。

「……分かりました。」


結局。

光秀が安寧丸に会えるのは、仕事の合間。

ほんの少しの時間だけになった。

「少しだけでも……。」

光秀は安寧丸の顔を覗き込む。

そして微笑む。

「大きくなったな。」

小さな手を握る。

「また来るぞ。」

短い時間。

それでも光秀にとっては、かけがえのない時間だった。

その頃。

裏の者たちは、さらに動いていた。

一人。

十人。

二十人。

それ以上。

各地へ散らばった者たちが、それぞれの場所から情報を集めている。

一つの情報。

二つの情報。

三つの情報。

まだ一本の線にはならない。

だが。

確実に何かが浮かび上がり始めていた。

玉はその報告を読みながら、何度も考える。

「……本当に、あの人なの?」

まだ答えは出ない。

疑いは強くなった。

しかし確証はない。

そして。

時間だけが過ぎていく。

玉は安寧丸を抱きながら、窓の外を見つめた。

「あと、どれだけ時間があるの……。」

答えは誰にも分からない。

ただ一つ分かっていること。

それは――。

本能寺の日が、少しずつ近づいているということだった。

そして玉はまだ知らない。

自分が追っているその人物が、本当に歴史を変えるほどの行動を起こそうとしているのか。

それとも。

歴史そのものが、すでに別の道へ進んでいるのか。

本能寺まであと六十三日。

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