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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第二百三十話 「関東、ひとつの形へ」

北条との協力体制が成立してから、十日。

関東の空気は、明らかに変わっていた。


佐竹。

里見。

宇都宮。

そして北条。

これまで互いに警戒し、時には刃を交えてきた勢力が、織田を中心とした新たな秩序の中へ入り始めている。


佐竹領では、滝川一益が各地から届く書状を整理していた。

「北条が加わったことで、関東の情勢は大きく変わりましたな」

側近が言う。

一益は頷いた。

「これまで北条を警戒していた国人衆も、これで動きやすくなる。」

「戦をしなくても、話し合いで決められることが増えるでしょう。」

そこへ佐竹義重が入ってきた。

「滝川殿。」

「これは佐竹殿。」

義重は机の上に広げられた地図を見る。

「北条が織田と協力するとはな。」

「殿も驚かれましたか?」

「驚いたとも。」

義重は苦笑する。

「ついこの間まで、北条をどうするかと考えていた。」

「それが今では、共に関東を守る側になった。」

一益は地図の小田原を指した。

「信長様は最初から北条を潰すつもりなどなかったのでしょう。」

「使える力は使う。」

「それが信長様です。」

義重は頷く。

「ならば、次に考えるべきは……。」

一益は義重を見る。

「上杉ですな。」

その名が出た瞬間、二人の表情が引き締まった。


関東がまとまり始めたとはいえ、北には上杉がいる。

しかも、上杉は単純に敵と決めつけられる相手ではない。

「上杉はどう動くでしょう。」

義重が尋ねる。

一益は少し考えて答えた。

「おそらく、すぐには動かないでしょう。」

「関東で織田が勢力を伸ばしていることを、向こうも見ているはずです。」

「ならば……。」

「こちらから無理に攻める必要はない。」

一益はそう言った。

「まずは北条との関係を固める。」

「里見との海上交易もさらに広げる。」

「宇都宮との街道も整える。」

「関東総奉行として、戦をする前に関東そのものを強くする。」

義重は満足そうに頷いた。

「なるほど。」

「戦うための準備ではなく、戦わなくても済むための準備か。」

「それもまた、織田のやり方でしょう。」


一方、安土。

信忠が小田原から戻ったとの報告を受け、信長は満足そうに笑っていた。

「北条が加わったか。」

「はい。」

「これで関東は?」

家臣が答える。

「佐竹を中心に、里見、宇都宮、北条が織田との協力体制に入っております。」

信長は地図を見る。

「よし。」

そして、関東から東へ視線を移す。

「これで関東を一つにする土台はできた。」

「次は、関東だけではない。」

家臣が尋ねる。

「上杉でございますか?」

信長は頷いた。

「上杉も、いずれこちらを見ることになる。」

「だが、今は急がぬ。」

「敵を増やす必要はない。」

信長が今最も重視しているのは、戦力を無駄に消耗させないことだった。

織田は今、日の本の各地で勢力を広げている。

関東だけに兵を集中させれば、他の場所が手薄になる。

だからこそ。

関東では現地勢力を活用する。

佐竹には佐竹の兵。

北条には北条の兵。

里見には海。

織田は、その上に立って全体を調整する。

信長は地図を見ながら呟いた。

「天下を取るというのは、全てを織田の兵で支配することではない。」

「各地の力を一つにまとめることじゃ。」


その頃、小田原。

北条氏政は、信忠が帰った後も、何度もあの話を思い返していた。

南蛮。

布教。

交易。

そして奴隷として売られている日の本の子どもたち。

「……我らは、関東のことばかりを見ていた。」

氏政は独り言のように呟く。

隣にいた松田憲秀が答える。

「はい。」

「織田は、さらに先を見ております。」

氏政は頷いた。

「ならば、北条も変わらねばならぬ。」

「これまでのように、領地を奪い合うだけではいかぬ。」

「街道を整え、港を整え、商いを盛んにする。」

「兵だけではなく、国そのものを強くする。」

松田憲秀が深く頭を下げる。

「北条家も、新しい時代へ進むということでございますな。」

「ああ。」

氏政は小田原の町を見下ろした。

「織田と組んだ以上、北条だけが豊かになればよいのではない。」

「関東全体を豊かにする。」

「それが結果として北条を守ることになる。」

かつてなら考えもしなかった発想だった。

しかし今は、それが正しいと思える。


そして岐阜。

光秀は関東から届いた報告書を読み終えていた。

北条との協力。

関東の安定。

そして、信忠が小田原で語った南蛮の話。

光秀は書状を机に置く。

「……天下の形が変わってきたな。」

そこへ玉が入ってくる。

「お父様。」

「おお、玉か。」

「関東から何か?」

「北条が織田と協力することになった。」

玉は少し驚いた。

「北条まで……。」

「ああ。」

光秀は笑う。

「信長様は本当に、関東をまとめてしまわれるおつもりらしい。」

玉は何も言わず、父を見つめた。

自分が知る歴史とは、もう完全に違う。

父は生きている。

信忠も生きている。

北条まで織田と協力している。

そして信長は、天下だけではなく南蛮まで見据えている。

玉は胸の奥で思う。

もう、自分が知っている未来をそのまま当てはめることはできない。

本能寺が起きるのか。

起きるとしても、いつなのか。

どこなのか。

誰が関わるのか。

何一つ確実ではない。

だからこそ。

玉は今まで以上に、目の前の家族を大切にしようと思った。

未来を知っているからではない。

未来が分からなくなったからこそ。

「お父様。」

「何だ?」

「これからも……どうか無事でいてください。」

光秀は少し驚いた顔をした。

そして笑う。

「何を突然。」

「私はまだ死ぬつもりなどないぞ。」

「はい。」

玉も微笑む。

「それなら、よかったです。」

玉は静かにお腹へ手を添えた。

自分の中で育つ命。

守るべき家族。

変わり続ける世界。

その全てを抱えながら、玉は前を向いていた。

そして日の本では。

織田信長が描く新たな天下の形が、少しずつ現実になり始めていた。

本能寺まであと百三日。

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