第二百二十三話 「引き継がれる関東」
関東では新たな体制づくりが始まっていた。
安土より、信長の返書が届く。
光秀は静かに封を開いた。
そこに記されていたのは、関東総奉行構想への裁可であった。
「関東総奉行の儀、認める。」
「佐竹義重を関東総奉行とし、関東諸家の調整、軍事、民政を統べさせよ。」
さらに続く。
「織田方の責任者には滝川一益を任ずる。」
光秀はゆっくりと頷いた。
「殿らしい御判断にございます。」
数日後。
滝川一益が関東へ到着した。
一益は史実でも上野国厩橋城(現在の前橋市周辺)を拠点として東国経営を担う人物である。
今回もその経験を生かし、関東における織田方の総責任者に任じられた。
一益はまず命じた。
「厩橋城は引き続き織田の東国拠点とする。」
「城代には我が信頼する家臣を置き、ワシは関東全域の政と軍を見て回る。」
織田の拠点は維持しつつ、一益自身は一か所に留まらない。
それが信長の求める役目だった。
さらに一益は佐竹・里見の両家を前にして言う。
「佐竹殿だけに役目が偏れば、いずれ不満も生まれよう。」
「よって里見には海を任せる。」
里見義頼が顔を上げる。
「海……でございますか。」
「うむ。」
「安房・上総の港を束ね、交易、水軍、兵站を統括する役目じゃ。」
「名を『関東海運奉行』とする。」
里見の家臣たちがどよめく。
港を預かる。
それは単なる名誉職ではない。
織田の大船。
南蛮との交易。
物資輸送。
その全てを担う重要な役職だった。
佐竹は陸。
里見は海。
役割を明確に分けることで、両家が競い合うのではなく支え合う体制が整えられた。
そしてその数日後。
光秀と一益は人払いをした部屋で向かい合っていた。
「後は頼みます。」
光秀が静かに頭を下げる。
玉の出産が近づいていた。
父として、今は岐阜へ戻る時である。
一益も深く頷いた。
「安心せよ。」
「そなたが築いた土台は、わしが守る。」
二人は地図を広げる。
関東。
畿内。
東海。
北陸。
天下全体を見渡す。
光秀が口を開く。
「関東へ兵を集め過ぎるのは危ううございます。」
「天下はまだ定まっておりませぬ。」
一益も同意した。
「そのとおり。」
「今、何が起こるか分からぬ。」
「岐阜には信忠様がおられる。」
「安土には殿がおられる。」
「兵の主力は畿内に置くべきじゃ。」
「関東は現地の諸将を軸に治める。」
光秀は静かに笑う。
「同じ考えでございましたか。」
「織田は秩序を与える。」
「戦うのは、まず関東の武士たち。」
「必要な時だけ織田が力を貸す。」
一益は地図を畳んだ。
「それでこそ長く続く政よ。」
光秀も頷く。
「では、お任せいたします。」
二人は固く手を取り合った。
こうして関東の政は滝川一益へと引き継がれ、光秀は妻と、そしてまもなく生まれてくる初孫を案じる父として、岐阜への帰路についた。
本能寺まであと百六十二日。




