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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第二百十九話 「遠ざかる記憶、近づく未来」

安土城。


信長は関東から届けられた報告書へ目を通していた。

小田は落ちた。

宇都宮は従った。

蘆名も揺れている。

里見の港には織田の大船が並び、佐竹には織田兵が駐留している。

関東は確実に変わり始めていた。


信長は報告書を置く。

そして窓の外を見る。

「妙じゃな。」

誰に聞かせるでもない独り言だった。

あの違和感。

最初は関東にあると思っていた。

だが違った。

関東に足場を築き、各地の情報が入るようになって初めて分かったことがある。

少なすぎるのだ。

反発が。


織田が関東へ入った。

里見と結び。

佐竹と結び。

宇都宮まで傘下へ加わろうとしている。

本来ならばもっと激しく反発する者が現れてもおかしくない。

だが、ない。

驚くほど静かだった。

「まだ動いておらぬのか。」


信長は目を細める。

あるいは。

「動けぬのか。」

違和感の正体。

それを生み出している何者か。

もし存在するとするならば。

おそらく本命は北条。

関東最大勢力。

織田と真正面から向き合うことになる相手。

「北条を攻める頃には見えるかもしれぬな。」

信長はそう呟く。

急ぐ必要はない。

盤上の駒はまだ動いている最中なのだから。


岐阜城。


玉は縁側に座っていた。

両手は自然と腹へ添えられている。

妊娠六ヶ月。

腹はもう誰の目にも分かるほど大きくなっていた。

最近では胎動も感じる。


ぽこん。

小さく動く感覚。

最初に感じた時は驚いた。

だが今では嬉しい。

「元気ですね。」

玉は小さく笑う。

隣には母がいた。

初めての出産。

不安はある。

だが母が近くにいる安心感は大きかった。

「よく動く子は元気な証ですよ。」

母の言葉に玉も頷く。


父である光秀は関東にいる。

心配ではある。

もちろん無事を祈っている。

だが以前ほど心を乱されることはなかった。

光秀自身が言ったのだ。

軍師であり前には出ないと。

信忠も何度も安心させてくれた。


そして何より。

今の玉には別のことで頭がいっぱいだった。

本能寺。

本能寺の変。

かつて知っていた歴史。

だが。

今の世界はあまりにも違う。

里見が織田と結ぶ。

佐竹が織田へ臣従する。

宇都宮もまた織田側へ傾く。

関東へ織田軍が駐留する。

そして父は関東で軍師をしている。


玉の知る歴史には何一つ存在しなかった。

「もう分からないな。」

玉は小さく呟く。

未来は変わっている。

もしかすると。

本能寺すら起きないかもしれない。

あるいは全く別の形になるかもしれない。

考えても答えは出ない。

だから決めた。

今は考えない。

今、自分がすべきことは一つ。

この子を無事に産むこと。

それだけだった。


障子が開く。

「玉。」

信忠だった。

「また動いております。」

玉がそう言うと、信忠は嬉しそうに笑う。

「どれ。」

そっと手を置く。

すると。

ぽこん。

「おお。」

信忠が目を丸くする。

玉も思わず笑う。

「元気な子になりそうですね。」

「父親に似たのでしょう。」

「それなら随分と忙しい子になりますな。」

二人は笑った。

戦も。

政も。

陰謀も。

今だけは遠い世界の話だった。

そこにあるのは夫婦と、生まれてくる子供だけ。

玉は信忠へ寄り添う。

信忠もまた優しく肩を抱く。

未来は分からない。

だからこそ。

今を大切にしたかった。

本能寺まであと百八十八日。

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