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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第二百十四話 「父の旅立ち」

岐阜城。


関東から戻った信長は、そのまま安土へ向かわず岐阜へ立ち寄った。


常陸での成果は大きい。

佐竹との同盟。

里見との連携。

そして関東攻略の足掛かり。

さらに大船二隻と兵を佐竹領へ残し、関東への拠点も確保した。

信長が率いて帰還したのは一隻のみ。


その日のうちに信長は岐阜城で信忠と光秀を呼び出した。

「面白いことになったぞ」

上機嫌な信長に対し、信忠と光秀は静かに話を聞く。

信長は関東での出来事を語った。

佐竹義重。

関東の勢力図。

北条の動向。

そして一月後に始まる最初の合戦。


話が終わると信長は当然のように言った。

「光秀」

「はっ」

「お主は佐竹へ行け」

あまりにも自然な命令だった。

だが光秀は驚かない。

むしろ予想していた。

「軍師としてじゃ」

信長は地図を叩く。

「佐竹を中心に戦をさせる」

「織田が前へ出過ぎれば関東の者どもは警戒する」

「じゃが佐竹が主役ならば話は別じゃ」

光秀は深く頭を下げた。

「承知いたしました」


信長は満足そうに頷く。

「うむ」

その様子を見ていた信忠は小さくため息をついた。

「義父上」

光秀が振り向く。

信忠は少し申し訳なさそうな顔をしていた。

「また遠方へ行かせることになりますな」

光秀は思わず笑う。

「殿らしいお気遣いですな」

信忠は苦笑した。

だが本当に心配していた。

玉のことがあったからだ。

懐妊五ヶ月。

安定期へ入りつつあるとはいえ、心の負担はできるだけ避けたい。

まして父が戦場へ向かうと聞けば動揺するかもしれない。


信長はそんな信忠を見て鼻で笑う。

「ならば説明してやればよい」

「光秀が槍を持って突撃するわけではあるまい」

確かにその通りだった。

光秀も頷く。

「軍師にございます」

「後方で兵を動かし戦略を練る役目です」

「最前線へ出ることはございませぬ」

信忠は少し安心したように頷いた。


その日の夕刻。

信忠は玉の部屋を訪れた。

障子を開くと玉が顔を上げる。

「殿」

穏やかな笑顔だった。

信忠は隣へ座る。

「話がある」

玉も表情を改めた。

信忠は迷わず伝える。

「父上が関東へ行かれる」

玉の目が大きく開く。

「父が?」

信忠は頷いた。

「佐竹家の軍師としてだ」

玉は言葉を失った。


関東。

遠い。

あまりにも遠い。

しかも戦のために行くという。

自然と腹へ手が伸びる。

「危険なのでしょうか」

その声には不安が滲んでいた。

信忠が答えようとした時。

障子の向こうから声がした。

「玉」

聞き慣れた声だった。

光秀である。


玉は立ち上がりそうになる。

「父上」

光秀は穏やかに笑っていた。

いつもと変わらない。

光秀は娘の前へ座る。

「心配しておるか」

玉は正直に頷いた。

「当然です」

「父上が戦へ向かうなど」

光秀は苦笑した。

「玉」

「私は軍師じゃ」

玉が顔を上げる。

「槍を持って突撃する役目ではない」

「後ろで考え」

「戦略を立て」

「兵を動かす」

「それが仕事じゃ」

玉は黙って聞いている。


光秀はさらに続けた。

「今の私が最前線へ出れば信長様にも怒られる」

その言葉に信忠が思わず笑う。

玉も少しだけ口元が緩んだ。

光秀は娘の腹へ視線を向けた。

そして優しく言う。

「それより今はお前の方が大事じゃ」

玉の目が潤む。

「父上……」

「母になるのだからな」

光秀は穏やかだった。

「私のことより自分と子を大切にせよ」

玉は静かに涙を拭う。

そして頷いた。

「はい」

光秀も安心したように笑う。


その後は三人でしばらく話をした。

戦の話ではなく。

生まれてくる子の話。

信長が関東で何をしでかしたのかという話。

玉も少しずつ笑顔を取り戻していく。

夜。

光秀が部屋を去った後。

玉は一人、腹へ手を添えた。

父は遠い関東へ向かう。

寂しさはある。

不安もある。

だが。

父が笑っていた。

だからきっと大丈夫なのだろう。

そう信じることにした。

窓の外では岐阜城の灯が揺れている。

関東では新たな戦が始まろうとしていた。

本能寺まであと二百四十日。

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