↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
212/258

第二百十二話 「天下人の評定」

常陸国・太田城。


織田信長を乗せた大船三隻が常陸へ到着したその日。

太田城は騒然となっていた。


天下人が来る。

それだけでも大事件である。

しかも使者や重臣ではない。

織田信長本人。

まさか本当に来るとは思っていなかった。


佐竹家中の誰もが驚いていた。

だが当の本人は平然としていた。


城へ入るなり義重へ言ったのである。

「評定を開け」

義重は思わず聞き返した。

「今日ですか」

「今日じゃ」

当然のような返事だった。

「全ての重臣を集めよ」

「せっかく来たのだ」

「まずは顔を見ておかねばならぬ」

そう言われてしまえば断れない。


義重はすぐに家臣たちへ招集を命じた。

突然の命令に家臣たちは慌ただしく集まる。

何事かと思いながら広間へ足を運ぶ。

そして。

その光景に全員が息を呑んだ。


上座。

そこには織田信長が座っていた。

堂々と。

まるで最初から自分の城であるかのように。

そしてその一段下。

主人である佐竹義重が座っている。

誰も異論はなかった。

今や信長は天下人。

佐竹はその傘下へ加わった。

席次としても当然だった。

だが。

頭では理解していても。

実際に目の当たりにすると別である。


天下人が。

自分たちの城にいる。

それだけで異様な光景だった。

信長は集まった家臣たちを見回した。

一人一人の顔を確認する。

まるで品定めでもするかのような鋭い目だった。

広間に緊張が走る。

やがて信長が口を開いた。

「楽にせよ」

そう言われても誰も楽になどできない。

信長はそんな様子を見て笑った。

「そう固くなるな」

「食うわけではない」

何人かの家臣が苦笑する。

少しだけ空気が和らいだ。


だが次の言葉で再び広間は静まり返る。

「さて」

信長は立ち上がった。

「お主らに聞きたい」

全員の視線が集まる。

「お主らは何のために戦う」

突然の問いだった。

誰も答えられない。

家のため。

主君のため。

家族のため。

様々な答えが浮かぶ。

だが口には出ない。

信長は頷いた。

「どれも正しい」

そして近くに置かれた地図を広げた。

関東一円。

広大な土地が描かれている。


信長はその地図を指差した。

「関東は面白い」

意外な言葉だった。

「広い」

「豊かじゃ」

「人も多い」

「だが」

信長の指が動く。

「あまりにも争い過ぎておる」

誰も反論できない。

それが事実だからだ。

北条。

上杉。

佐竹。

里見。

その他の国衆たち。

争いは絶えない。


信長は続けた。

「戦は構わぬ」

「戦国だからな」

家臣たちも頷く。

だが。

「民を苦しめる者は別じゃ」

その声が低くなる。

「領民から奪うだけ奪う」

「飢えても知らぬ顔」

「己の贅沢しか考えぬ」

信長の目が鋭くなる。

「そんな者に領主を名乗る資格はない」

広間が静まり返る。

信長は地図の上へ指を置く。

「そういう者は潰す」


誰も口を開かない。

「城を奪う」

「土地を奪う」

「家を潰す」


そして。

信長は佐竹家臣たちを見回した。

「その土地は佐竹へ与える」

広間がざわついた。

家臣たちの目の色が変わる。


信長は続ける。

「里見を海の拠点とする」

「佐竹を陸の拠点とする」

「まず関東を整える」

その言葉に重臣たちも息を呑む。


関東攻略。

それも北条だけではない。

関東そのものを変えようとしている。

信長は笑った。

「北条は最後じゃ」

まるで当然のように言う。

「周囲を固める」

「力を蓄える」

「逃げ道を塞ぐ」

「その後に叩く」

あまりにも自然に語る。

だがそれは関東の勢力図を書き換える話だった。


信長は家臣たちへ視線を向けた。

「戦うのは儂のためではない」

広間が静かになる。

「佐竹のためじゃ」

「領民のためじゃ」

「子や孫のためじゃ」

その言葉が響く。

「手柄を立てるのもお主ら」

「領地を得るのもお主ら」

「家を大きくするのもお主ら」

そして。

信長は不敵に笑った。

「やる気のある者だけついて来い」

その瞬間だった。

「お任せくだされ!」

一人の重臣が立ち上がる。

「我らも戦います!」

「佐竹のために!」

次々に声が上がった。

広間の空気が変わる。

不安は消え。

熱気へ変わっていた。


義重はその様子を見て驚いていた。

まだ評定が始まって間もない。

それなのに。

信長はすでに家臣たちの心を掴んでいた。

やがて評定は夕刻まで続いた。

軍備。

兵糧。

街道。

交易。

様々な話が交わされる。


そして夜。

全てが終わった。

家臣たちは興奮した様子で広間を後にする。

これから始まる変化を語り合いながら。

その背中を見送った信長は小さく笑った。

「悪くない」

義重も頷く。

「家臣たちもやる気になったようですな」

信長は満足そうに酒を飲む。

「それでよい」


そして。

人払いが行われた。

広間には二人だけが残る。

織田信長。

佐竹義重。

天下人と関東の雄。

ここからが本当の評定だった。

信長は地図を広げる。

先ほどまでの笑みは消えていた。

鋭い目で関東を見つめる。

「さて義重」

その声は低い。

「詳しく聞こうか」

「関東の全てを」

本能寺まであと二百四十八日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。