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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第百九十六話 「積み重なるもの」

初夏。


織田の領内は以前にも増して活気づいていた。

街道には荷車が並び、 港には各地の商船が集まる。

戦による混乱が減ったことで、 人も物も流れ始めていた。


岐阜城でも同じだった。

「近江からの流通量がさらに増えております」

「堺の商人たちも織田銭を優先して使い始めました」

信忠は報告を受けながら静かに頷く。

今の織田は、 武だけで動いているわけではない。

経済。

海。

流通。


それら全てが繋がり始めている。

「長宗我部との交易も安定しております」

光秀の言葉に、 信忠は小さく息を吐いた。


四国との争いを避けた意味は大きい。

兵の損耗も少なく、 海路も安定した。

結果として西国戦線全体へ余裕が生まれている。

「父上はさらに東を見ておられる」

信忠が呟く。

「はい」

光秀も頷いた。


八丈島。

関東。

海路。

織田は確実に東への足場も作り始めていた。

だが。

それと同時に、 家中の空気も少しずつ変わっていた。

「武功を立てる場が減りましたな」

評定後。

柴田勝家が豪快に笑いながら言う。

その声には冗談も混じっている。

だが本音でもある。

今までの戦国なら、 戦で功を立てることでしか上へ行けなかった。

だが今は違う。

港を整える者。

街道を管理する者。

流通を安定させる者。

そういった働きも重くなり始めている。

「世が変わるのでしょう」

長秀が静かに言った。

勝家は腕を組む。

「簡単には変わらん」

「だが変わらねば、織田はここまで大きくならなんだ」

誰も否定できなかった。

その頃。

奥では玉がゆっくりと歩いていた。

腹も以前より大きくなっている。


侍女たちは常に周囲を気にしていた。

「玉様、段差にお気をつけください」

「そこまで大事では……」

「大事です!」

強く言われ、 玉が少し笑う。

熙子もその様子を見て穏やかに微笑んでいた。

「皆、楽しみにしておるのです」


玉は静かに腹へ手を添える。

この子が生まれれば。

織田はまた変わる。

期待も。

思惑も。

さらに大きくなる。

それは理解していた。

「怖くはありませぬか」

熙子が優しく聞く。

玉は少し考える。

そして小さく頷いた。

「……怖いです」

「ですが」

玉はゆっくり空を見る。

「守りたいとも思うのです」

未来を。

家族を。

この穏やかな時間を。


以前は、 ただ本能寺を防ぐことしか考えていなかった。

だが今は違う。

“その後”を考え始めている。


その夜。

安土。

信長は届いた報告を見ながら静かに笑った。

「ようやく形になってきたか」

海路。

銭。

流通。

それらが繋がり始めた今、 織田は単なる戦国大名ではなくなりつつある。

「殿」

長秀が低く言う。

「大きくなりすぎれば、歪みも増えます」

信長は笑みを消さない。

「当然よ」

「だから面白い」

その目は鋭かった。

巨大になった流れは、 もう簡単には止まらない。

誰にも。


本能寺まであと三百八日

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