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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第百九十四話 「それぞれの役目」

岐阜城。


春の空気が城下を包み始めていた。

城の外では商人たちが慌ただしく動き、 荷を運ぶ人足の声が響いている。


織田の領内は今、 戦だけではない活気に満ちていた。

奥では玉が静かに書を読んでいた。

以前より顔色も良い。


熙子が側にいることで、 心の安定も保てている。

「最近は少し穏やかな顔になりましたな」

熙子の言葉に、 玉は少し照れたように笑う。

「母上がいてくださるので」

「甘えられるうちに甘えなさい」

その言葉に玉は少しだけ幼い顔を見せた。

まだ十五の少女。


本来ならば、 母の側で穏やかに暮らしていてもおかしくない年齢だった。

だが今は違う。

織田嫡流の正室。

さらに子を宿している。


その重圧は軽くない。

「……時々怖くなるのです」

玉がぽつりと漏らす。

熙子は何も言わず、 娘の言葉を待った。

「ちゃんと産めるのか」

「この子を守れるのか」

「皆の期待に応えられるのか」

玉は腹へそっと手を当てる。

未来を知っている。

だからこそ怖い。

少し歴史が変わるだけで、 全てが大きく揺れる。


今の幸せが、 いつ崩れるのか分からない。

「玉」

熙子が優しく手を重ねる。

「最初から強い母などおりませぬ」

「皆、不安になりながら母になるのです」

玉は静かに母を見る。

「わたくしも、そうでした」

熙子は微笑んだ。

「父上も最初は慌ててばかりでしたよ」

その言葉に、 玉は少し吹き出す。

「父上が?」

「ええ」

「あなたが熱を出した時など、一睡もせず右往左往しておりました」

玉は思わず笑った。

そんな父は想像できない。

だが。

その話を聞くだけで、 胸の奥が少し温かくなる。


一方。

表では信忠が家臣たちと話していた。

「武功が減ったと不満を持つ者もおります」

長秀の言葉。

信忠は頷く。

それは理解していた。

戦が減れば、 武士たちは功を立てる場が減る。

だが今の織田に必要なのは、 戦だけではない。

「ならば別の功を作るしかない」


信忠が言う。

「港を整える者」

「流通を守る者」

「民を安定させる者」

「それもまた織田を支える功だ」

部屋が静かになる。

まだ完全には浸透していない。

だが。

信忠は少しずつ、 新しい織田の形を作り始めていた。

そこへ勝家が豪快に笑う。

「若殿も変わりましたな!」

「以前ならまず戦の話であったろうに!」

信忠は苦笑する。

「父上ほど戦好きではありません」

その言葉に周囲が笑った。

だが。

誰も否定しなかった。


信長が切り開いた天下。

その上で、 信忠は“続ける織田”を作ろうとしている。

それは信長とはまた違う才能だった。

夕刻。

信忠は奥へ顔を出していた。

玉は縫い物をしている。

その横で熙子が穏やかに見守っていた。

「無理はしておらぬか」

信忠が聞く。


玉は少し頬を膨らませた。

「皆して子ども扱いします」

「実際まだ十五だ」

「……それを言われると弱いです」

熙子が思わず笑う。

信忠も少し表情を緩めた。

穏やかな空気だった。

戦国の世とは思えぬほどに。

だが。

だからこそ守りたい。

信忠はそう思っていた。

この時間を。

この未来を。


本能寺まであと三百十五日

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