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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第百八十五話 「違和感」

安土城。


信長は静かに文を眺めていた。

関東。

近江。

堺。

播磨。

それぞれ別の報告。


だが内容には妙な共通点があった。

「……またか」

丹羽長秀が低く呟く。

信長は口元だけで笑った。

「面白いではないか」

文には小さな違和感が記されていた。


本来なら知られていないはずの情報。

妙に早い動き。

誰かが先を読んでいるような気配。

だが決定的な証拠はない。

偶然と言われればそれまで。


しかし。

一度や二度ではなかった。

八丈島。

関東。

海路。

兵の移動。

商人の流れ。

各地で僅かなズレが起き始めていた。

「関東だけではありませぬな」

長秀が言う。

信長は頷いた。

「だから良い」

「泳がせておるのですか」

「そうよ」


信長は迷いなく答える。

「今潰せば尻尾だけで終わる」

「ならば動かす」

「動けば見える」

その目は鋭かった。

信長は既に、 誰かが裏で動いている可能性を考えていた。


だが。

慌ててはいない。

むしろ観察していた。

どこへ繋がるのか。

誰が反応するのか。

何を恐れているのか。

違和感は嘘をつかない。

必ずどこかへ繋がる。

信長はそう考えていた。


「殿」

長秀が少し声を落とす。

「家中にも広がるやもしれませぬ」

信長は笑った。

「構わぬ」

「膿は溜めれば腐る」

「ならば炙り出すまでよ」

その言葉には恐ろしいほどの冷静さがあった。


一方。

岐阜城。

玉もまた奥の耳から妙な話を聞いていた。

「最近、城下に見慣れぬ者がおる」

「商人らしいが妙に詳しい」

「誰が流したか分からぬ話が先に広まっておる」

どれも小さなもの。

だが。

確かに増えていた。


玉は静かに考える。

偶然か。

それとも。

歴史が変わったことで、 別の何かが動き始めているのか。

だが今はまだ分からない。

下手に動けば、 逆に相手へ気づかれる。

玉は無意識に腹へ手を添える。

この子を守らなければならない。

だからこそ焦ってはならない。


「母上」

熙子が振り向く。

「どうしました?」

「……もし」

玉は少し迷う。

「もし、見えぬ相手と戦うならどうしますか」

熙子は静かに微笑んだ。

「見えぬなら、まずは慌てぬことです」

「動けば必ず痕跡を残します」

「人は完全には隠れられませぬ」

玉は小さく頷く。


父も。

信長も。

今はあえて動いていない。

ならば自分も焦るべきではない。

その頃。

どこかで一通の文が燃やされていた。

灰だけが静かに崩れ落ちる。

だが。

その部屋にいた者の顔は見えない。


本能寺まであと三百二十三日

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