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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第百八十六話 「繋がらぬ糸」

安土城。


深夜。

信長は一人、各地から集まった文を並べていた。

関東。

堺。

播磨。

近江。

八丈島。

全て別の話。

別の人間。

別の土地。


だが。

どこかに共通する違和感がある。

「……繋がらぬな」

信長が呟く。

普通ならば、 ここまで情報が散れば一本の線が見える。

誰が流した。

どこから漏れた。

誰が得をする。

だが今回に限ってはそれがない。

まるで意図的に繋がりを消しているようだった。


襖が静かに開く。

「失礼いたします」

入ってきたのは丹羽長秀だった。

信長は文から目を離さない。

「どう思う」

長秀はしばらく考えた後、口を開いた。

「誰かがおる、とは思います」

「ですが」

「見えませぬ」

信長は笑った。

「だから面白い」

長秀は苦笑する。

「殿は楽しんでおられますな」

「退屈せぬ」

信長はそう言って杯を持つ。

だが。

本当に楽しんでいるのか。

長秀には少し分からなかった。


信長は“見えぬ相手”を最も警戒する男でもある。

だからこそ今、 逆に動いていない。

焦って崩れるのを待っている。


一方。

岐阜城。

玉は夜風に当たりながら庭を見ていた。

虫の音。

遠くの松明。

静かな夜だった。

だが心は落ち着かない。

「眠れませぬか」

後ろから熙子の声がする。

玉は少し笑った。

「少しだけ」

熙子は隣へ座る。

「考え事ですか」

「はい」


玉は腹へ手を添えた。

「最近、何かがおかしい気がするのです」

「ですが、それが何なのか分からない」


玉は未来を知っている。

だからこそ、 余計に違和感へ敏感だった。

歴史が変われば、 本来なかった動きも生まれる。

では。

今起きているこの流れは何なのか。

誰が動いているのか。

そもそも本当に“誰か”なのか。

玉はそこすら断言できなくなっていた。


「玉」

熙子が静かに言う。

「人は、分からぬものを恐れます」

「ですが、恐れすぎれば自ら崩れます」

「今は見極める時なのでしょう」

玉は静かに頷いた。

焦ってはいけない。

今はまだ糸が見えていない。


その頃。

堺。

ある商人が文を受け取っていた。

内容を読む。

表情は変わらない。

だが読み終えると、 火へ放り込んだ。

燃える紙。

崩れる灰。

周囲にいる者たちも何も聞かない。

ただ静かだった。

そして男は小さく呟く。

「……早いな」

その意味を知る者はいない。


本能寺まであと三百十九日

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