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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第百八十四話 「武功なき時代」

岐阜城。


信忠のもとには今日も大量の文が届いていた。


貨幣。


流通。


街道整備。


海運。


毛利への兵糧。


長宗我部への支援。


処理すべきものは山のようにある。


その横で光秀が静かに文を整理していた。




以前の明智光秀なら、これほど穏やかに政務へ向き合うことはなかったかもしれない。


だが今は違う。


疲弊よりも充実が勝っていた。


「……随分と変わりましたな」


光秀がふと呟く。


信忠が顔を上げる。


「何がだ」


「織田家にございます」


光秀は静かに続けた。


「以前は戦、戦でございました」


「ですが今は違います」


「銭が動き、人が動き、海が動いております」


信忠は苦笑する。


「父上らしくはないか」


「いえ、殿だからこそでしょう」


光秀の目は真剣だった。




力だけでは天下は保てない。


信長はそこへ辿り着き始めている。


だからこそ今の織田は強い。


だが。


その変化に戸惑う者たちもいた。




その日の夜。


岐阜城下の酒屋。


武将たちが酒を酌み交わしていた。


「最近は戦が減ったな」


一人がぼやく。


「毛利も海から締め上げる」


「長宗我部も調略」


「堺も商いで押さえた」


別の男が杯を置く。


「武功を立てる場がない」


その声には不満が滲んでいた。


戦国武将にとって武功は全て。


戦で名を上げ。


領地を得る。


それが当然の世界だった。


だが今の織田は違う。



戦を減らし始めている。


「最近は商人ばかり儲かっておる」


「銭勘定ばかりよ」


「俺たちは算盤のために槍を振ってきたわけではない」


酒席には小さな鬱憤が漂っていた。


だが。


それはまだ愚痴。


反意ではない。


ただ。


変わりゆく時代への戸惑いだった。



その頃。


奥では玉が静かに話を聞いていた。


奥の耳から入る報告。


武将たちの不満。


酒席での会話。


玉は黙って聞いている。



熙子が心配そうに見る。


「大丈夫ですか?」


玉は小さく頷く。


「はい」


だが。


内心では考えていた。


戦を減らせば兵は死なない。


領地は豊かになる。


民も生きる。


それは正しい。


しかし。


戦で生きてきた者たちはどうなるのか。


武功が無ければ誇りを示せない者もいる。


玉はそこに危うさを感じ始めていた。


「……急ぎすぎているのかもしれません」


小さな呟き。



だが熙子には聞こえていた。


「玉」


「はい」


「世が変わる時は、皆が不安になるものです」


熙子は優しく言う。


「ですが、変わらねばならぬ時もあります」


玉は静かに腹へ手を添える。


変わらなければ。


本能寺は来る。


だが。


変えすぎれば別の歪みも生まれる。


その均衡の難しさを、玉は痛いほど感じ始めていた。



一方。


安土。


信長もまた報告を受けていた。


家中の小さな不満。


武功不足。


武断派の鬱憤。


信長は鼻で笑う。


「当然よ」


そう。


当然だった。


時代が変われば、

武将の価値も変わる。


それを受け入れられる者。


受け入れられぬ者。


必ず分かれる。



信長は静かに杯を置く。


その表情からは何を考えているのか読み取れない。


だが安土の夜は静かだった。


静かすぎるほどに。


本能寺まであと三百二十七日

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