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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第百七十二話 「奥の耳」

岐阜城。

奥では静かな時間が流れていた。


だがその静けさとは裏腹に、玉の胸の内には消えぬ違和感が残っていた。

誰かが見ている。

誰かが織田の流れを読んでいる。

しかも。

かなり近い場所から。


玉は縁側に座り、庭を見つめていた。

その隣には母・熙子。

「難しい顔をしておりますよ」

優しい声。

玉は少し苦笑した。

「考え事を」

熙子はすぐ察する。

「政のことですね?」

玉は頷いた。

「最近、妙に話の流れが早いのです」

「こちらが動く前に、相手が備えていることがあります」

熙子は静かに聞いていた。

玉は続ける。

「偶然かもしれませぬ」

「ですが……」

そこで言葉を止める。


熙子は無理に聞かなかった。

代わりにそっと玉の肩へ手を置く。

「一人で抱え込んではなりませんよ」

その言葉に、玉は少しだけ表情を和らげた。


その頃。

政務の間では、織田信忠 と 明智光秀 が文を確認していた。

堺。

瀬戸内。

東国。

各地から報告は届いている。

だが。

光秀は一枚の文で手を止めた。

「……妙ですな」

信忠が顔を上げる。

「何がだ」

「滝川殿の停泊予定地」

「そこから離れるように里見側の船が動いております」

信忠の目が細くなる。

「偶然ではないと?」

光秀は静かに頷く。

「まだ知られて良い情報ではありませぬ」

「限られた者しか知らぬはず」

部屋に沈黙が落ちた。


そこへ玉が来る。

信忠はすぐ席を立つ。

「休んでいろと言っただろう」

玉は少し笑った。

「ずっと休んでいては逆に落ち着きませぬ」

熙子も後ろに控えている。

完全に娘を守るように。

玉は二人の顔を見る。

「何かありましたか?」

光秀が事情を話す。

すると玉は静かに考え込み、やがて言った。

「……奥を使いましょう」


信忠が眉を動かす。

「奥?」

玉は頷く。

「武将たちは表で動きます」

「ですが、奥方様方は違います」

「侍女」 「商家との繋がり」 「土産」 「噂話」

「男たちが気に留めぬものが、奥には集まります」

光秀が感心したように目を細める。

「なるほど……」


玉は続けた。

「表立って探れば警戒されます」

「ならば自然に集めれば良いのです」

「誰が」 「どこで」 「何を知っていたのか」

「まずは流れを見ます」

信忠は玉を見つめる。

懐妊してなお。

玉は織田を守ろうとしている。


その責任感の強さに、信忠は静かに息を吐いた。

「……無理だけはするな」

玉は優しく笑う。

「はい」

だがその瞳には、 確かな警戒心が宿っていた。

夜。

奥では侍女たちが動き始める。

自然に。

あくまで自然に。

誰がどこで何を話したか。

どの商人が最近急に動いたか。

どの武将家で妙な文が増えたか。

女たちの会話の中から、 少しずつ情報が集まり始めていた。

玉は静かに腹へ手を置く。

歴史は変わった。

だが。

変わったからこそ、 見えなくなったものがある。

ならば。

探し出さなければならない。

本能寺へ続く“何か”を。


本能寺まであと三百五十七日

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