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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第百七十話 「母の手」

明智の屋敷。


朝。

明智光秀 の妻、熙子ひろこは、届けられた文を何度も読み返していた。


手が震える。

文には確かに書かれている。

――玉、懐妊。

「……玉が……」

思わず口元を押さえた。

嬉しい。


だが同時に、どこか信じられなかった。

あの娘が。

いつも身体は大丈夫かと気にかけ。

文が届くたび安堵し。

戦乱の世で無事に生きているかと心配していた娘が。

今や織田家嫡男の正室となり。

そして子を宿した。


さらに文には続きがあった。

――岐阜城へ来てほしい。

――玉の心を安らげるため、そばにいてやってほしい。

しばらく言葉が出なかった。

城へ行けば玉に会える。

信忠にも会う。

そして殿もいる。

そんなこと。

かつての自分には想像もできなかった。

戦国の世で。

それほどの立場へ娘が進んだのだ。


外から声がする。

「お迎えにございます」

奥の者たちだった。

既に準備は整っている。

熙子は慌てて用意していた荷を手にした。

着替え。

薬草。

安産祈願の品。

娘へ持たせたかった細々した物。

母として準備していたものばかりだった。

駕籠が進む。

道中。

胸の鼓動が落ち着かない。

嬉しい。

だが。

それ以上に会いたかった。

本当に長い間、会えていなかったのだ。


やがて。

岐阜城が見えてくる。

巨大な城。

織田の中心の一つ。

そこへ、自分が迎えられる。

不思議な感覚だった。


城内へ通される。

奥の者たちも丁寧だった。

既に“玉の母”として扱われている。

そのことにまた驚きを覚える。

廊下を進む。

懐かしいようで、遠い場所。

その先。


襖が静かに開いた。

そこに――玉がいた。

以前よりも大人びていた。

正室としての気品。

柔らかな衣。

だが。

母の目にはすぐ分かった。

あの頃と同じ娘だと。

玉が立ち上がる。

「……母上」

その瞬間。

二人は駆け寄っていた。

「玉……!」

「母上……!」

抱き合う。

涙が溢れる。

長い間、会えなかった。

ずっと心配していた。

戦乱の世で。

嫁ぎ先で。

無理をしていないか。

泣いていないか。

一人で耐えていないか。


玉も涙を流していた。

今まで張っていた気が、 少しだけほどける。

母の匂い。

母の手。

それだけで安心してしまう。

傍らでは。

光秀が静かに目頭を押さえていた。

娘と妻が再会している。

その光景だけで胸が熱くなる。

かつての自分には考えられなかった。

家族で笑える未来など。


信忠もその様子を見ていた。

そして静かに安堵する。

この判断は間違っていなかった。

玉は気丈だ。

だがまだ十五。

初めての懐妊。

不安がないはずがない。


やがて熙子が涙を拭きながら言う。

「本当に……大きくなりましたね」

玉も泣き笑いを浮かべる。

「母上こそ……」

その様子に、信忠も少し笑った。

光秀が静かに事情を説明する。

「玉はまだ初産ゆえ、不安も多い」

「だからこそ来てもらった」

熙子は深く頷いた。

「もちろんです」

「母として、そばにおります」

そして玉の手を優しく包む。

「これからは、母がいつもそばにおりまする」

「不安なことも」 「気になることも」

「全部、母に任せなさい」

その言葉に。

玉は再び涙を浮かべた。


戦乱。

政。

織田家正室。

背負うものは増えていく。

だが今だけは。

娘として甘えてもいいのだと。

そう思えた。

外では、岐阜城が静かに動き続けている。

織田銭。

海路。

東国調査。

天下統一。

全てが加速していた。

だがその奥で。

新たな命を守るための、 穏やかな時間もまた流れ始めていた。


本能寺まであと三百六十一日

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