表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/146

第百十九話「海の激突(毛利水軍、鉄の城に挑む)」

瀬戸内。

冬の海は荒れ、波は低く唸っていた。

その海を、無数の船影が埋め尽くしていた。


毛利水軍。

村上水軍を中心とした船団が、潮の流れに合わせて扇のように広がる。

小早。

関船。

安宅船。

数で押し、囲い込み、焼き払う。

それが毛利の海の戦い方だった。

海を知り尽くした者たちの布陣。

だが――その海に、異物が現れる。


沖合。

巨大な影がゆっくりと近づいてきた。

船。

いや、城。

鉄で覆われ、舷側は壁のように高い。

波を割り、海そのものを押し退けるように進んでくる。

毛利の兵たちは、思わず息を呑んだ。

「……なんだ、あれは」

「船か?」

「いや、船の形をした城だ……!」

指揮を執る男は、村上武吉。

瀬戸内を知り尽くし、毛利の水軍を束ねる猛将である。


武吉は双眼のように目を細め、巨大船を見据えた。

(織田が船を作ったとは聞いていた)

(だが、これほどとは……)

その船は、進むだけで海が割れる。

船団の中心を真っ直ぐに狙っていた。

止めねばならぬ。

ここを通せば、兵站が繋がる。

兵站が繋がれば、秀吉が止まらぬ。

それは毛利にとって、敗北を意味した。


武吉は叫ぶ。

「囲め!」

「横から突け!船腹を割れ!」

太鼓が鳴る。

毛利の船が一斉に動き、巨大船を取り囲もうとする。

村上武吉の脳裏には、勝ち筋があった。

海戦は数。

そして操船。

織田は陸の者。

海を知らぬ。

ならば、船を止めて燃やせばよい。

武吉は指示を重ねる。

「火矢を放て!」

「焙烙を投げ込め!」

矢が飛ぶ。

火が舞う。

だが――燃えない。

鉄が火を弾く。


油を流し、火を移そうとする船が近づくが、舷側が高すぎて登れぬ。

「登れぬ……!」

「梯子を!」

梯子をかけようとする。

しかしその瞬間。

船上から、種子島の火花が走った。

乾いた音。

銃弾が水軍の兵を撃ち抜く。

「ぐあっ!」

「撃たれるぞ、下がれ!」

武吉の目が鋭くなる。

(鉄で守り、上から撃つ……)

(まるで城攻めの逆だ)

巨大船は速度を落とさない。

むしろ。

囲い込もうとする船を、正面から押し潰していく。

安宅船が突っ込む。

衝突。

木が裂ける音。

毛利の安宅船の船首が砕けた。


「ば、馬鹿な……!」

武吉は歯を噛み締めた。

(押し負ける?)

(この海で?)

巨大船は、中央を割って進む。

船団が裂ける。

毛利の誇る包囲が、真っ二つに割られていく。

武吉は焦りを押し殺し、冷静に状況を読む。

(あれは無敵ではない)

(だが弱点が見えぬ)

(火が効かぬ)

(登れぬ)

(船腹を割れぬ)

(そして撃たれる)

武吉は理解した。


この船は戦うためではない。

通るための船。

兵站を運ぶための船。

戦を避け、海を押し切るための船。

だからこそ、止めねばならぬ。

武吉は叫ぶ。

「船を捨ててでも止めろ!」

「鎖を張れ!」

「網を投げろ!」

次々に仕掛けが投げ込まれる。

だが巨大船は、網を引き裂き、鎖を弾き、進み続ける。

その船首が水を切るたび、毛利の兵は恐怖した。

(これは船ではない)

(海に浮かぶ槍だ)


武吉は内心で呟く。

(信長め……)

(陸の覇者が、海の形まで変えるか)

そして次の瞬間。

巨大船の側面から、焙烙玉が放たれた。

小型投擲器。

夜空を裂く火の弧。


爆ぜる音。

陶器片が飛び散り、毛利の甲板が血に染まる。

「うわああっ!」

「火だ!火を消せ!」

武吉は目を見開いた。

(焙烙玉を船で……?)

(しかも破片入りか)

毛利の船は混乱する。

それでも船数は多い。

包囲を再び閉じようとする。

だがその瞬間、巨大船がさらに速度を上げた。

船団の中心が、完全に割れた。


武吉は歯を食いしばった。

(通された)

(通されれば、秀吉が伸びる)

(織田の兵站が、西国を呑む)

武吉は即座に決断した。

「追うな!」

家臣が叫ぶ。

「武吉様!追わねば!」

武吉は怒鳴った。

「追えば沈む!」

「船を失えば毛利の海が終わる!」

武吉は冷静だった。

海の覇者は、無駄死にを嫌う。

この戦は、勝つ戦ではない。

止める戦だった。

だが止められなかった。


武吉は拳を握り締める。

(次は……)

(次は、必ず沈める)

巨大船はそのまま進み、波の向こうへ消えていった。

毛利の海に、初めて恐怖が生まれた瞬間だった。

瀬戸内は毛利の庭。

そう信じていた者たちの心に。

“織田の鉄の船は、海の常識を壊す”

その現実が刻まれた。

村上武吉は、海を睨んだ。

「信長……」

「お前は、海まで奪うつもりか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ