ようこそ氷川相談所へ②
「稀血を持つ人間。貴女よ、上石百合」
雪にそう告げられ、目を丸くする百合。
「わた……し?」
稀血。
それはあのイタチの化物、いや、イタチのイビルも口にしていた言葉。けれど当然、百合には聞き覚えのない言葉で。
「あの化物も言っていたけど、稀血って何なの?」
「その前に伝えなければいけないけれど、イビルが餌にするのは、悪意の他にもう一つあるの。それが人間の生命力、精気。その精気は血液と混じり全身を巡っている。そして稀に規格外な精気を持つ人間が存在する。その人間の血液を稀血というの」
「稀血……。そんなのが私の全身に?」
蛍光灯に手をかざし、マジマジと眺める。この体の中に、そんなものが流れているとは到底思えないが。
そんな百合の様子を気にすることなく、雪は続ける。
「そして当然、襲われれば犠牲となり命を落とす人間も出てくる。その中でも稀に、強い恨みや怒りを抱いて死んだ人間が蘇ることがあるの。こんな風にね」
そう告げ、立ち上がった雪はおもむろに自らの制服に手をかけ、脱ぎだした。
「雪!? ちょ、何してるの? 私達にはまだ早いというか、女の子同士だし」
慌てて両手で顔を隠す百合。けれど、その指の隙間からしっかりと見えた。
引き締まった肢体と、胸の膨らみ、そしてその少し下にある、深い、まるで何か大きな刃物で突き刺されたような傷跡。
明らかな、致命傷と思えるような傷跡。
「強い恨みや怒りを抱いて死に、その強い思いで蘇った人間。それが私達、イビルを狩るもの、リベンジャー」
「リベンジャー……」
制服を着直す雪を目の前にし、百合は呆然とした。
眼の前にいる少女が蘇った人間? リベンジャー?
とても信じられない、荒唐無稽な話だ。けれど、それと同時に本心では事実だと理解してしまった。
致命傷と思えるような傷跡、人間離れした身体能力と火炎を出す能力、そして楓のあの言葉。
それらを説明できるような理由なんて、それぐらいしかないのだろうから。
そこまで考え、ふとある可能性が頭をよぎった。
不思議な力は使っていない。けれど、雪の正体に気付いており、かつ、雪と同等の身体能力を見せた少女が一人いたではないか。
その気付きに、雪は目を見開き、体を強張らせる。
幼馴染で、それこそ小学生のころからずっと一緒だった。だからこそ、そんなわけないと思う。けれど、嫌と言うほど心臓が早鐘を鳴らす。痛いぐらいに。
「安心なさい。あの娘、龍宮寺楓は生きた人間よ。ただ、特殊な力は持っているようだけれど」
「……え?」
「あの娘もリベンジャーじゃないのかと心配したのでしょう? 顔に書いてあったわ」
雪の指摘に、百合は顔を真っ赤にして俯きながらも、深く安堵の息をつく。
しかし、それもつかの間。パッと顔を上げ。
「特殊な力って?」
「あの娘があなたに伝えていないのなら、私から言うべきではないわね」
「それは……そう、だね」
またしても、顔を曇らせ俯いてしまう百合。そんな彼女を前に、雪はやれやれと溜息をつき。
「気になるのなら、本人に直接聞くことね。けれど、これだけは伝えておくわ。あの娘は間違いなくあなたの味方。それだけは覚えておいてあげなさい」
そう伝え、雪はソファから立ち上がると、窓際にある事務机の方へと向かいその椅子に座り直した。
そして、机の上に両肘を立てて手を組み、ニッコリと笑みを浮かべる。それはもう、すべての人間が見惚れてしまうような笑みを。
「それじゃあ、百合。明日からここでアルバイトをよろしくね」




