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ようこそ氷川相談所へ③

 百合がビルの一室にてアルバイトに誘われているのと同時刻。

 古く伝統的なつくりの巨大な日本屋敷。荘厳な中庭に面した長い廊下を、黒髪を揺らしながら楓が怒り心頭といった様子で突き進んでいた。

「おかえりなさいませ、お嬢様。いったいどちらへ?」

「当主のところです。確認することがあるので」

 途中、すれ違った年配の女性にそれだけ伝え、構わず廊下を直進。すると、右手に見えてきた巨大な襖の前でピタリと足を止め、勢いよく開け放った。

「おばあ様! お話がございます」

 開け放ち、キッと上手に座るその人物に視線を送る。

「何ですか、楓。慌ただしい。龍宮寺の人間たるもの、もっと穏やかに」

「そんなことはどうでもいいですわ、おばあ様。それよりもお聞きしたいことがあります」

 おばあさまと呼ばれた、しっかりと日本和装に身を包み、年を感じさせないほどピンッと背筋のまっすぐなその女性――龍宮寺凜の前に、楓は正座し。

「おばあ様。本日学校にて、イビルに近しい何かに接触いたしました。アレは何なのですか!?」

「要領を得ないですね。落ち着いて、初めから話なさい」

 静かながらも、それでいて空気がピンッと張る声。それに一瞬たじろぐも、深く息を吐き直して楓は再度語りだした。今日、学校であったことを。

「長い白髪の少女、そうあの子が」

「ご存じなのですか!?」

「落ち着きなさい。あの者は、敵ではありません。確かに生きた人間ではありませんが、私達龍宮寺家――いいえ、悪狩りの一族と目的は同じです。敵対する必要はありません」

「信用できません。あの女は、みすみす百合ちゃ……護衛対象である稀血の少女を危険に晒した。事と次第によっては、私自ら!」

 そこまで口にしかけた時だった、楓がハッと息を飲み込んだのは。

 楓の額を冷や汗が伝う。いつの間にそこに現れたのか、空中に浮かび、切っ先を自身に向けている無数の日本刀に囲まれながら。

「仮に、彼女が稀血の少女を何かに利用しようとたくらんでいたとしても、決して事を構えてはいけません。貴女では彼女には敵わない。死ぬだけです」

「そんな事、やってみないと」

「いいえ、分かります。彼女は全盛期の私で五分でした。対して貴女はどうですか? この年老いた老婆にすら勝てぬ身で、何が成せると」

 その言葉と共に、まるで呼応するかのように、宙に浮いた日本刀が次第に楓に近づく。そのうちの一本の切っ先が楓の首元に僅かに刺さり、薄皮を裂いた。

 つうっと赤い滴が楓の首を伝い、畳に落ちる。

 けれど怯まない。楓は臆することなく、凛を真っすぐ見返し続けた。

「このままでは、部屋が汚れてしまうわね」

 やれやれと息をつく。すると、宙に浮いていた日本刀の数々がパッとその姿を消したのだ。

「まったく。昔はもっと冷静だったはずなのだけれど」

「太陽が隣にあれば、どんな氷でも、いずれは水となり熱を持つものですわ」

「そう。それは美しい変化ね」

 真っすぐ返された楓のその返答に、凜はどこか嬉しそうに口角をわずかに上げた。しかし直ぐに厳しい顔に、祖母ではなく、龍宮寺家当主の顔に戻った。

「そこまで言うのならば、彼女が何者なのか伝えましょう。イビルに似て、非なる者たちについて」





 


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