告白と涙
とある小学校で三つ首の犬の化け物が現れると、依頼を受けた雪と百合。依頼人である男性教師、本庄守に先導され職員室に向かっていた。
「着きました。少しお待ちください」
職員室前に到着し、ドアを開けて部屋の電気をつける守。それに続き、百合も雪と共に職員室内へ。
複数の教師用の机が並ぶ室内。どこの学校も、職員室は似たような作りなんだなと百合は室内を見回した。すると、守は足早に室内奥にある応接用と思われる黒革のソファへ。
「こちらへどうぞ」
「失礼するわね」
促され、対面するように腰を下ろす二人。
「それで、早速だけど事件の内容を聞こうかしら」
守は一度視線を伏せ。
「一年前からです。夜間、ある教室で椅子や机が散乱し、カーテンが破れ、窓ガラスが割れるようになりました。そして必ず、室内の至る所に巨大な獣がつけたようなひっかき傷が残っているんです」
守の話を聞き、漫画やゲームでよく見るケルベロスと呼ばれる魔獣が教室内で暴れ回る姿を思い浮かべ、百合は思わず身震いした。
そんな彼女の様子を横目に。
「けど、それだけじゃ三つ首の巨大な犬の化物なんて分からないわよね。ということは、目撃者がいるのね」
当然の疑問。しかし守は言い淀み。
「……私が、見たんです」
やがて、重々しく口を開いた。
職員室を後にし、夜の暗い廊下を守を先頭に歩く三人。
ふと、雪は小声で口を開いた。
「そういえば、百合。夜間の行動だけどご両親に何も言われなかったかしら?」
「あぁ、それなら大丈夫。ウチ、親いないからさ」
「――え?」
予想だにしていなかった返答に、珍しく言葉に詰まる雪。
「詳しくは覚えてないんだけどさ。小学生の頃に強盗に襲われて、私だけは助かったんだけど、それでね」
「……そう、悪いことを聞いたわね」
「ううん、気にしないで。お隣さんも色々助けてくれるし、私自身は二人の分まで全力で精一杯生きるだけだから」
そう口にし、どこか寂しさを感じる笑みを浮かべる百合。
そんな話をしていると、前を歩く守がある一室の前で不意に足を止めた。
「……着きました」
ドアを開き、中に足を踏み入る三人。
瞬間――
「何、これ」
足を止め、思わず両腕を抱き身震いする百合。
言いようのない寒さがまとわり付き、周りの音も遠くに感じる。
「ここがかつて貴方が受け持っていたクラス。そして、事件の起きている教室ね」
「……はい」
「そして、ここで貴方はそれを見たのね」
答えるかわりにコクりと頷く守。
それを確認し、改めて室内を見回す。
机も教卓も取り払われ、黒板だけがぽつりと残っている教室だ。それだけで一目で分かる。この部屋が、今は使われていないと。
「それにしても酷い悪意ね」
ポツリと呟く雪。
それから守に向き直り。
「確認だけれど、異変が起きているのはこの教室だけなのよね?」
雪の問いかけに一拍間を置き。
「はい。それが、何か?」
その返答を聞き、雪は深くため息。
「いい加減、腹芸はやめましょうか」
「な……何のことでしょうか?」
明らかな狼狽。しかし雪は構うことなく。
「貴方、普通に考えておかしいと思わないのかしら?いくつも教室がある校内で、この一室のみで異変が起きる異常性を」
「それは……」
「そして、貴方はこの教室を利用していたクラスの元担任。そんな貴方が、夜間に動いてまで事件をどうにかしようとする。何か理由を疑うのは当然でしょう」
「それは、元担任としての責任感で」
「なら、他の教師を頼ればいいじゃない。『人を呼んだけれど、急用ができて約束の時間に間に合わない。代わりに、それまで応対してもらえないか』――とかね」
雪の追求に、なにか口にしようとしたが守は両手を握りしめて、言葉を飲み込み俯いた。
そして――
「私が担任をしていたとき、このクラスでイジメがありました」
「イジメ?」
「一人の生徒が、イジメの末に自殺したんです。私のせいで」
そう告げた守の頬を、一筋の涙が伝った。




