衝突③
「終わった、の?」
イタチの化け物を飲み込んだ火炎が消えたのを確認し、百合はポツリと呟いた。
果たして目の前で起きたことは現実なのだろうか。
イタチの化け物が現れ、そしたら、転校生が人間離れした身体能力で蹴り飛ばし、果ては火炎を放った。
どこからどう見ても、漫画やアニメの世界の出来事だ。
それに、イタチの化け物が放った稀血という言葉。聞き覚えのないはずなのに、なぜか、百合に言いようのない不安感を抱かせる。
「今回も空振りだったわね」
百合が困惑に固まっていると、先程までイタチがいた場所に視線を送っていた雪は振り返り、百合と向き直る。
「百合、怪我はないかしら?」
「え、えぇ」
まるで先ほど起きたことが何ともないことだと言わんばかりの、平然とした様子で問いかけてくる雪に、どうにかそれだけ返す。
と、それとほぼ同時だった。
「百合ちゃん、ご無事ですか!?」
バンッと勢いよくドアが空けられ、授業中のはずの楓が現れたのだ。
入室した楓の目に一番に飛び込んだのは、左手を怪我している百合の姿。そして、一緒にいる雪。
それだけで、楓には十分だった。
「貴様ぁぁ!」
殺意に満ちた視線と裂帛の気合。地を蹴り上げた楓は、先程の雪にも勝る速さで、一気に雪との距離を詰める。そして、何もないはずの左腰に手をかけ、半身をひねった。
あたかも、抜刀術のように。
「待って、楓!」
しかし、何かが放たれようとしたその瞬間、2人の間に百合が割って入った。
ピタリと動きを留め、しかし構えを解くことなく楓が叫ぶ。
「どいて百合ちゃん、そいつを殺せない! そいつは百合ちゃんを狙って。百合ちゃんが血を流してるのが何よりの証」
「よく分からないけど、違うよ楓! これは調理実習で指を切っただけだし、雪は私を守ってくれたんだよ」
「……守っ、た?」
「えっと、イタチみたいな大っきい化け物が現れて、それを雪が倒してくれたんだよ。それで」
未だ自身でも何が起きたのか理解できていないが、本能のまま、ただ伝える。
百合が嘘を言うとは思えない。
チラリと視線を雪に向ける。すると、雪は肩をすくめてみせ。
「結果として守ったことにはなるかしらね」
その様子に、楓は苦虫を噛みながらようやく構えを解いた。
「百合ちゃんがいうなら、そうなんでしょうね。けれど私は貴女の存在を認めません。人外の貴女の存在は」




